タシグナが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

タシグナは、血液のがんである慢性骨髄性白血病に適応を持つ抗がん剤です。
慢性骨髄性白血病は、異常なたんぱく質「Bcr-Abl」ががん細胞の増殖に関与している事が分かっており、そのたんぱく質を標的としたグリベックという抗がん剤が長期予後の改善を示すとして広く用いられていました。

しかし一方で、グリベックが様々な患者さんで使用され長期における使用経験のデータが集まるにつれ、グリベックの効果が十分に得られない患者さんや副作用のため継続出来ない患者さんも一定の割合で存在する事も明確になっています。

このような背景から、より効果の高い薬剤の開発が望まれ誕生したのがタシグナなのです。
また、タシグナは「Bcr-Abl」を標的とした抗がん剤の中で慢性骨髄性白血病の小児患者さんを対象とした臨床試験を唯一実施しており、適切な用法・用量が設定されている薬剤です。

このページでは、抗がん剤「タシグナ」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

タシグナ(一般名:ニロチニブ塩酸塩水和物)とは

タシグナは、ノバルティスファーマ社において開発された薬剤で、2007年に米国、欧州、スイスで承認されてから120か国以上で承認されており、日本においては2009年に承認されています。

慢性骨髄性白血病の患者さんの標準療法として先に発売されていたグリベックも、タシグナと同じくノバルティスファーマ社が開発した薬剤です。

タシグナが適応となるがんの種類

タシグナは「慢性骨髄性白血病」に適応を持つ抗がん剤で、内服により治療が行われます。

1回400mgを食事の1時間以上前か食後2時間以降に、1日2回12時間ごとを目安に服用します。ただし、初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の場合は1回の投与量は300mgとなります。

また、小児の患者さんの場合は、以下の通り体表面積により決められた投与量を服用します。

体表面積 1回投与量
0.32㎡以下 50mg
0.33~0.54㎡ 100mg
0.55~0.76㎡ 150mg
0.77~0.97㎡ 200mg
0.98~1.19㎡ 250mg
1.20~1.41㎡ 300mg
1.42~1.63㎡ 350mg
1.64㎡以上 400mg

※食後にタシグナを服用すると、タシグナの血中濃度が増加する事が分かっています。血中濃度が増加すると副作用が現れやすくなると考えられているため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避ける必要があります。

タシグナに期待される治療効果

タシグナは、「分子標的薬」というグループに属する抗がん剤です。

がん細胞は特定の遺伝子やたんぱく質が発現しており、これらががん細胞の更なる増殖や転移に関係しているとされていますが、分子標的薬とはこのがん細胞が持っている遺伝子やたんぱく質など特定の因子を標的とする薬剤です。

タシグナは、慢性骨髄性白血病の原因となるフィラデルフィア染色体の異常から産生される「Bcr-Abl」というたんぱく質を標的にしています。

※現在「Bcr-Abl」を標的とした分子標的薬はタシグナの他にグリベック、スプリセルが標準療法として承認されています。それぞれの使い分けは患者さんの病期の進行状況や身体の状態などにより、ガイドラインに基づいて主治医の先生より提案されます。

タシグナの効果について、初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の患者さんを対象とした日本を含む国際共同臨床試験において、「細胞遺伝学的寛解(顕微鏡検査や血液検査でフィラデルフィア染色体が消失している状態を示す患者さんの割合)」80.1%という結果が得られています。

主な副作用と発現時期

タシグナなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。

従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。また、標的が同じ分子標的薬であっても現れる副作用の種類や頻度などは異なりますので、薬剤を変更した場合なども改めて確認する必要があります。

主な副作用

初発の慢性骨髄性白血病の患者さん556例を対象とした、日本を含む国際共同試験で報告された主な副作用は以下となります。

発疹
36.3%(202/556例)
頭痛
19.4%(108/556例)
血小板減少症
18.5%(103/556例)
悪心
17.4%(97/556例)
高ビリルビン血症
16.7%(93/556例)
そう痒症
16.5%(92/556例)
低リン酸血症
13.7%(76/556例)
好中球減少症
12.9%(72/556例)
脱毛症
12.1%(67/556例)

これら副作用の発現時期は患者さんによって異なり、投与初期に現れる方や投与から1年以上経過してから現れる方もいますので投与中は常にご自身の変化に注意が必要です。

また、患者さんによって副作用の重さも異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながら生活することをおすすめします。

タシグナの安全性と使用上の注意

タシグナを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

治療出来ない患者さん

・タシグナの成分に対して過敏症の既往をお持ちの患者さん:再度使用する事で重いアレルギー症状が現れる可能性があります。

・妊婦又は妊娠している可能性のある患者さん:動物実験において胚・胎児毒性が認められたとの報告があります。

重要な基本的注意

  • 骨髄抑制の副作用が現れる場合がありますので、定期的な血液検査が行われます。なお、骨髄抑制は病期の進行とともに重くなることが分かっており、また、グリベックで骨髄抑制の副作用が現れた患者さんで頻度が高いことが確認されています。
  • 突然死の可能性もある心電図検査の異常で、QT間隔の延長が報告されています。タシグナ投与前には心電図検査が行われ、投与中も定期的な心電図検査が行われます。異常が認められた場合は減量や休薬などが検討されます。なお、海外で心疾患またはその既往歴のある患者さん、心リスク因子のある患者さんにおいて、タシグナ投与後に突然死に至った例が報告されています。これらの患者さんはQT間隔延長が原因である可能性が示唆されています。
  • 胸水や肺水腫、心嚢液滞留、心タンポナーデ、うっ血性心不全などの体液貯留が現れる事があります。定期的な体重測定を行い、急激な体重増加や呼吸困難などの異常が現れた場合は投与が中止されます。
  • 血中ビリルビンや肝トランスアミナーゼ、リパーゼの増加が現れる事がありますので、肝機能や膵酵素に関する血液検査が定期的に行われます。異常が認められた場合は減量や休薬が検討されます。
  • B型肝炎ウイルスキャリアの患者さんにおいては、タシグナの投与によりウイルスの再活性化が現れる場合があります。投与前に肝炎ウイルス感染の有無について確認されます。
  • 高血糖症状が現れる事がありますので、投与中は定期的に血糖の測定が行われます。
  • めまいや霧視、視力低下などの視力障害が現れる事がありますので、自動車の運転など危険が伴う機械操作はできません。
  • 過去にグリベックを服用し副作用で中止になった患者さんは、タシグナで同じ副作用が現れる可能性がありますので注意が必要です。

使用上の注意

  • 心疾患やその既往歴のある患者さん:心疾患が悪化する可能性があります。
  • QT間隔延長の恐れのある患者さんや既往をお持ちの患者さん:QT間隔の延長が現れる可能性があります。
  • 肝機能障害のある患者さん:肝機能障害が悪化する可能性があります。また、肝機能障害によりタシグナの血中濃度が上昇し、副作用が現れやすくなる可能性があります。
  • 膵炎やその既往歴のある患者さん:膵炎が悪化、再発する可能性があります。
  • 高齢の患者さん:一般的に高齢の方は生理機能が低下していますので副作用の頻度が高くなる可能性があります。
  • 授乳中の患者さん:動物実験において乳汁中への移行が報告されていますので、授乳は中止する必要があります。
  • 小児の患者さん:低出生体重児、新生児、乳児、2歳未満の患者さんに対する使用経験がないため安全性が確立していません。

慢性骨髄性白血病の患者さんを対象としたタシグナなどの治療薬は、服用し続ける事で長期に渡り効果が認められている薬剤ですが、一方で治療期間が長期化する事で医療費が増大するという問題点がたびたび議論されています。

タシグナではこの問題を解消すべく、長期に効果が認められている患者さんにおいて治療をストップしてもその効果が維持できるか、つまり適切な治療期間について検討するための臨床試験が実施されています。

結果は約44%の患者さんにおいて、タシグナを中止しているにも関わらず4年間その効果の継続が確認されています。さらに、効果が消失し治療を再開した場合でも100%に近い患者さんにおいて再度効果が得られています。

さらに長期に検証すべきですが、この臨床試験により抗がん剤による「完治」という希望が見えてきたと言えるでしょう。

これからタシグナの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

Pmda 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 | 医療用医薬品 情報検索
患者向医薬品ガイド | タシグナカプセル 50mg
NCCNガイドライン | 慢性骨髄性白血病
日本内科学会雑誌 | ポスト・イマチニブ時代
参照日:2019年8月

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薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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