手術数で分かる前立腺がんの名医がいる病院ランキングトップ10

悪くして前立腺がんであるという診断を受けた場合には、適切な治療を受ける必要があります。同じ治療を受けるのであれば、治療成績や医療の質が良い病院を選ぶ必要があります。しかし、わが国ではそれぞれの病院の「治療成績」や「医療の質」は、一部の医療機関が自主的に公表している情報の他にはあまり知ることが出来ません。

インターネットには「医療クチコミサイト」がありますが、治療成績や医療の質を知るには、不十分です。治療が上手くできているのかどうか等の客観的な情報を知る必要があります。しかし、これらについて完全にわかる適切な指標は、わが国にはありません。そのため、ここではその代わりとなるような客観的な指標として、DPCデータによる手術件数・治療件数に基づく病院ランキングを紹介します。

手術件数・治療件数自体は、治療成績や医療の質と直接的には関係無いように見えます。しかし、ある病気の手術件数・治療件数が多い医療機関に在籍している医師や医療スタッフは、多くの経験を積んでいます。そして、そのような病院・医療機関には同じ病気の患者さんが集まりやすいです。さらに、患者さんが多く集まると、熟練した医師や医療スタッフも集まりやすくなるという良い循環が生じます。そのため、治療件数は「ある程度は」治療成績や医療の質と関連がある数値と考えられます。

また、ここでは手術件数・治療件数以外にも役立つ指標・ポイントについても説明します。

目次

前立腺がんの手術が適応となる症例

近年は、治療方法を医師のみの意見で決めるということは徐々に減りつつあります。2004年のNTTデータの調査結果によると、治療を決める方法として、95%を越える方が「医師が決めた方針について十分な説明を受けて、納得した上で治療を行いたい。」あるいは、「治療について十分に説明を聞き、複数の選択肢を提示してもらった上で、自分自身が治療方法を選択したい」と回答しています。

このように、患者さんが主体となって治療方針を決定する機会が増えています。しかし、前立腺がんを含む多くのがんについては、手術による治療が可能かどうか(手術適応となる病状かどうか)は、専門医の判断が不可欠です。

前立腺がんの手術の適応を考える時のキーポイントは、「がんがどのくらい拡がっているか」です。がん細胞が前立腺に止まっている場合や前立腺の被膜を超えて拡がっているが比較的狭い範囲である場合には、手術が選択肢に入ります。また、他の治療方法を併用する事で手術による治療が可能になる場合もあります。このような判断のためには、体の状態・がんの状態を正しく評価することが前提ですので、主治医の先生からよく説明を受ける必要があります。

前立腺がん手術数トップ10

医療機関の治療成績や医療の質

医療の質を「クチコミ」で評価されることが多くあります。大手サイトでも、患者クチコミを収集し、公開しています。クチコミは患者さんやご家族の主観による指標ですので、満足度などを知るには良いかもしれませんが、治療成績や医療の質を確かめるのに十分とはいえません。

NTTデータが行った2004年の調査においても、「通院・入院した医療機関を選ぶ際に不足していた情報は?」という質問に対する回答は「各医師の経歴・診療実績」「医療機関の治療実績」「医療機関の得意とする手術や治療分野」が上位3位で、客観的な情報が不足しているという結果になっていました。

アメリカでは、各病院の治療成績についての情報を「クオリティ・インディケーター」として公開しています。しかし、わが国では、全国的に医療の質(治療成績)を公表することは義務づけられていません。そのため、一部の病院で自主的に自分の病院の治療成績をホームページなどで発表しているのみです。このような状況下では、病院の治療成績について評価や比較することができません。そのため、その代替の情報として「DPCデータ」を用いて客観的な情報を比較することが多くなされています。ここでもDPCデータを元に手術数・治療数が多い病院を紹介します。

DPCデータとは何か

わが国では、通常であれば医療費の支払は「出来高払い」という方式が取られています。この方式は実際に行われた医療行為ごとに医療費を計算する方法です。これに対して、一部の病院については、診断群分類包括評価という医療費の定額支払い制度に使われる評価方法が採用されています。この制度に参加している医療機関におけるデータ(DPCデータ)は、厚生労働省での審議の資料として用いられますので、厚生労働省のホームページからダウンロード可能となっています。

DPCデータでは病気が大まかに分類されています。その分類ごとにどの医療機関でどのような治療が何人の患者さんに行ったかを知ることができます。

2017年のDPCデータでは、「前立腺の悪性腫瘍」では、162,643件のデータがあり、そのうち22,006件(およそ13.5%)では前立腺悪性腫瘍手術等を行っています。手術を行っていないデータは、131,698件(81.0%)でした。前立腺がんにおいては、手術をしない方が多数派であることがわかります。

DPCデータから見た手術数トップ10

2017年のDPCデータを元にした集計結果を示します。結果としては都市部の病院が多くなっていますが、これは、都市部では人口が多いため、病気になる人の割合が地方と同じであっても、患者さんの数が多くなることも影響しています。また、カッコ内は件数を示しています。

「前立腺悪性腫瘍手術等」のトップ10は下記の通りです。

東京医科大学病院(211
社会医療法人 恵佑会 札幌病院(198)
千葉県がんセンター(182)
順天堂大学医学部附属 順天堂医院(181)
公益財団法人 がん研究会 有明病院(165)
済生会熊本病院(163)
医療法人社団 愛友会 上尾中央総合病院(155)
熊本中央病院(153)
藤田保健衛生大学病院(149)
長野市民病院(144)

○手術なしの場合のトップ10

手術をしなかった治療件数のトップ10も合わせて提示します。

「前立腺の悪性腫瘍」の手術なしでのトップ10は下記の通りです。

東京医科大学病院(621
総合病院国保旭中央病院(603)
医療法人 原三信病院(596)
独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター(555)
独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院(465)
名古屋第二赤十字病院(445)
伊勢崎市民病院(430)
杏林大学医学部付属病院(416)
新潟県立がんセンター新潟病院(410)
順天堂大学医学部附属 順天堂医院(404)

手術数以外にも注目したいポイント

わが国では、治療成績や医療の質に関する客観的な情報が十分には公開されていません。DPCデータからわかる手術数や治療患者数は1つの目安にはなりますが、これらの数は都市部で多くなりがちです。ここでは、他にも注目したいポイントとして、いくつかの指標を紹介します。

平均在院日数

平均在院日数は、入院している日数の平均値です。同じような病状で同じ治療や手術を行ったとすると、どこの病院に入院したとしてもその入院期間は、大体同じくらいになるはずです。しかし、実際には病院毎に差が生じています。この差が何によって生じているかを明らかにする事は困難です。一般には、入院から退院までの治療・ケアのプロセスにおいて、品質管理がきちんと行われていれば、平均在院日数を短くなります。つまり、この指標が短い病院ほど治療成績や医療の質が高いと考えられます。

5年生存率・平均生存期間

5年生存率は、治療した日(手術日)から数えて、5年間に何%の方が死亡せずにいるのか?という指標です。この数字が高い程、治療による効果があったと考えられます。また、平均生存期間は治療を受けた方が平均して、何年何ヶ月の期間、死亡せずにいるのか?という指標です。この指標も高い程、治療による効果があったと考えられます。

これらの指標は手術や治療の有用性を直接知るためには大変重要な指標です。しかし、DPCデータからは取得できませんので、全国の病院の治療成績を比較するためには利用出来ません。しかし、一部の病院・医療機関では独自に発表しているので、確認することができます。

開業医からの評判

地域で診療所を開業している医師のところに前立腺がんを含めた大きな病気の患者さんが来たときには、自分の診療所では手術などはできませんので、同じ地域の大きな病院に紹介します。この時に、「どこに紹介すれば、一番よい治療が行えるのか?」という情報を持っています。さらに、「紹介した患者さんがキチンと治ったのか?」についても情報を持っています。

また、開業医には個人的な医師同士の繋がりがあり、そこからの情報も持っているという点も重要です。例えば、開業医の先生の同窓生に優秀な医師がいる場合には、その優秀な医師がどの病院に勤めているか、どのくらいの手術をしているのか等について、開業医の先生はよく知っています。

そのため、病院の治療成績に関する客観的な指標が入手できない場合には、開業医の先生からの評判は、ある程度は信頼できる判断基準の一つと考えられます。

前立腺癌診療ガイドライン2016年版. 日本泌尿器科学会編. メディカルレビュー社NTTデータ | 「患者の主体性と医療への満足度についての調査」結果について 2004年7月16日
厚生労働省 | 中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(DPC評価分科会))
病院情報局
医療総合サイトQLife(キューライフ)
参照日:2019年11月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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