前立腺がんとは 

前立腺がん

前立腺は、男性のみにある重さ20g程の小さな臓器です。前立腺の位置としては、膀胱の下側で尿道の周りを取り囲むような場所にあります。

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前立腺がんは、近年増えているがんの1つです。2024年6月時点での最新のデータとしては2019年には1年間に94748人がが前立腺がんと診断され、これは男性のがんの中では第1位です。死亡者数も2020年では12759人でした。そのため、前立腺がんを予防したり、治療したりすることは重要な課題となっています。

しかし、肺がん・大腸がんなどと比べると、前立腺がんはマスメディアなどでもあまり話題になることがなく、十分に情報が拡がっていないようです。

前立腺がんは、初期には症状はなく、気づきにくいがんですが、がん検診としてPSA検査という簡便な方法が確立しています。また、がんになったとしても生命予後が良い(つまり、死亡率が少ない)ので、生活の質を保ちながら治療を続けることが重要になります。

このように前立腺がんは、死亡率は少ないものの、これからどんどん増えていく病気です。ここでは、前立腺がんがどのような病気で、どのような検査や治療が行われているのかについて、最近の研究を踏まえながら紹介します。ぜひ予防や早期発見、よりよい治療選択のための参考にしてください。

目次

前立腺とは

出典:前立腺がんについて |国立がん研究センターがん情報サービス

前立腺は、男性のみにある重さ20g程の小さな臓器です。前立腺の位置としては、膀胱の下側で尿道の周りを取り囲むような場所にあります。近くには、精液を溜めている精嚢があります。

前立腺の体内での働きについては、わかっていないことも多くありますが、前立腺液という精液の成分を分泌したり、射精の時に精嚢に溜められた精液を尿道内に押し出したりする働きがあることはわかっています。

前立腺がんの主な原因と特徴について

前立腺がんの原因やリスクファクターには、現在研究が進んでいることもあり、十分に明らかになっていない点も多くあります。ここでは、近年の研究報告の内容から食事・射精回数・生活習慣について概要を紹介します。

多くの研究によって、高脂肪食が前立腺がんのリスクとして報告されています。逆に、前立腺がんの予防に役立つと考えられているのは、魚に含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった成分です。他にも、大豆のイソフラボン・緑茶のカテキン・トマトのリコペンにも前立腺がん予防効果があると考えられ、注目されています。

また、射精頻度は前立腺がんに対して予防的な関係にあることが分かっています。2016年の研究で、1ヶ月に21回以上射精する男性では、前立腺がん発症のリスクが低かったことが明らかにされています。

他にも、これまでの研究結果によると、喫煙・肥満・運動不足は前立腺がんになりやすい生活習慣であると報告されています。

このような前立腺がんの原因(リスク要因)や前立腺がんになりやすい人の特徴を踏まえて、日常からできる予防対策についての情報を「前立腺がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて」で紹介しています。

前立腺がんの初期症状と診断方法

早期の前立腺がんでは、多くの場合、ほとんど自覚症状がありません。もし、症状があるとすれば「尿が出にくい」「尿の回数が増えた」といったものです。これらの症状は、良性疾患である前立腺肥大症の症状であることが多く、そのため、初期には自覚症状からは気づきにくい種類のがんであると言えます。

前立腺がんに最初に気づくきっかけとして、自覚症状以外に前立腺がん検診があります。検診で行われるのがPSA検査です。このPSA検査を受け、結果として値が高ければ、専門医の先生の診察を受け、次の検査を行うなど、積極的な対応が必要です。

前立腺がんの疑いがある場合に、確定診断のために必要になるのは、前立腺生検という検査です。この検査では、前立腺の組織を少量採取して、顕微鏡で観察します。それによって、「がん細胞があるかどうか」、「がん細胞があったとしたら悪性度合いはどうか」を詳しく知ることが出来ます。検査の結果、前立腺がんであると分かれば、転移の有無や前立腺の中での広がり具合を確認し、病期(ステージ)を確認するための検査が行われます。

なお、検査には合併症(出血・発熱など)もあります。検査方法の利点・欠点や、その医療機関での実績についても、担当医師からの説明がありますので、わからないことは良く確認してから検査を受けるようにして下さい。

初期症状から診断までの流れ、検査にかかる費用については「前立腺がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは」で紹介しています。

前立腺がんのステージ別生存率

前立腺がんは、進行していたとしても比較的予後の良いがんの1つです。ですが、進行具合によっては、予後・治りやすさは異なっています。一口に「進行」といっても「どのくらい進行したのか」を知る必要があります。そのための指標がステージ分類です。

がんがどのステージにあるのか分かれば、がんの今の状況だけでなく、今後どのようになるのかを知るための目安になります。そして、「どのような治療が良いのか?」もこれまでの統計情報の蓄積からある程度予想することができます。

この予想の中で患者さんにもっとも重要な指標が生存率という治療成績です。前立腺がんの5年相対生存率は、ステージIからIIIの患者さんでは100%、ステージIVでは、65.9%となっています。このうち、手術を受けた患者さんだけで見てみると、ステージIからIIIでは100%と変わりませんが、ステージIVでは82.1%となっています。

このように高い生存率ですので、症状による様々な体や心のつらさを取り除くための緩和ケアは大変重要です。前立腺がんと共に生きる人生を有意義なものにするためにも、積極的な緩和ケアの利用が必要です。

このような前立腺がんのステージ別生存率や平均余命、緩和ケアについての説明は、「前立腺がんのステージ別生存率と平均余命」で紹介しています。

治療と副作用

前立腺がんではいくつもの治療方法があります。これらの治療法から、どのように治療方針を決めるには、がんの病期、体の状態や治療方法について十分に知ることが必要です。いずれの方法にもメリットとデメリットがありますので、それらを天秤に掛けた上で治療方針が決定されます。

手術治療のメリットは、前立腺全術によって前立腺がんを根治することが期待できることです。一方で、体への負担もあるため、高齢者や全身状態が悪いと手術による負担に耐えられないというデメリットもあります。ただ、近年は体への負担を抑えた手術方法も開発されつつあります。

内分泌療法は、がん増殖に関連している男性ホルモンを押さえ込む薬を用いることによって前立腺がんの増殖を止める方法です。手術や放射線治療が困難でも実施できるというメリットがありますが、徐々に治療効果が下がるというデメリットもあります。

化学療法は抗がん剤を用いた治療です。内分泌治療と同様で、手術や放射線治療が実施困難な場合にも実施可能です。さらに内分泌療法の効果が下がった後でも化学療法は効果が期待できます。一方で、化学療法は強い副作用があります。

放射線治療には、内部照射と外部照射という2つの方法が現在行われています。内部照射には入院が必要になることが多い、早期がんに対する適応であることが多いといった欠点が、外部照射では副作用が出やすいという欠点がありますが、放射線を照射することで癌細胞を死滅させることにより治療効果が期待できます。

また、前立腺がんには、監視療法という方法があります。前立腺がんは予後が良いがんですので、がんの性状がおとなしく、余命には特に影響がないような物であると判断されれば、経過観察のみを行い、過剰な治療を行わないという方法です。

前立腺がんの治療については「前立腺がん治療と副作用について」にて紹介しています。

全国の病院ランキングトップ10

どの病院で治療を行うかは、がんを治療していく上で重要な問題です。マスメディアや一部のウェブサイトではクチコミを元にした評価がなされている事もありますが、本当にその病院の治療で体調が良くなっているかどうか(治療成績)をしることはできません。

日本では、各病院が自主的に治療成績を公表していることもありますが、網羅的に治療成績に関する情報を取得することはできません。そのため、代わりの指標として「DPCデータ」というデータを用いて比較することができます。このデータを確認すると、どの病院がどのくらい手術や治療を行っているかを知ることができます。

ただし、手術数・治療数は人口の多い都市部で多くなりがちです。そのため、病院の治療成績を比較するときには、手術数・治療数だけでなく、他の指標(平均在院日数など)も合わせて確認することが重要です。

手術数で分かる前立腺がんの名医がいる病院ランキングトップ10」では、DPCデータを元に手術数・治療数が多い病院をリストアップし、他に注目したい指標についても紹介しています。

What’s前立腺がん | 前立腺とは?
What’s前立腺がん | 疫学 ~前立腺がんは増えている?~
Ejaculation Frequency and Risk of Prostate Cancer: Updated Results with an Additional Decade of Follow-up – PubMed
国立がん研究センター がん情報サービス | 前立腺がん 治療
がん研有明病院 | 前立腺がん
病院情報局
参照日:2019年11月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医/臨床遺伝専門医

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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