ProGRPの数値が高い原因と対策

健康診断で「ProGRPの数値が高い」といわれると、「何か病気があるのではないか」と不安に感じるでしょう。また、過去にがんを患った経験のある人は、「がんが再発したのではないか」と心配になるのではないでしょうか。

ProGRPは小細胞肺がんで上昇することの多い腫瘍マーカーですが、腎臓の機能が低下した場合や検査の試薬との相性で高値になることもあります。そのため、検査結果について1人で思い悩まず、まずは精密検査を受けることが大切です。

本ページでは、ProGRPが上昇する原因とその対処法についてご紹介します。

目次

ProGRPとは

ProGRPは「ガストリン放出ペプチド前駆体」という物質を略した際の名称です。

ガストリン放出ペプチド(GRP)とは、ガストリンというホルモンの分泌を刺激する物質で、ProGRPはGRPを作るために必要な物質のことをいいます。

もともとGRPは脳から分泌される物質として発見されましたが、その後、肺の小細胞がんでもGRPが分泌されることがわかったため、GRPのもととなるProGRPを小細胞肺がんの腫瘍マーカーとして活用するようになりました。

腫瘍マーカーとは、体の中にがんが存在している場合に、血液中で増加することのある物質です。治療効果の判定や経過観察に有用な指標として用いられます。

その一方で腫瘍マーカーは、がんがあっても増加しないこともあるため、がんの早期発見には不向きな指標とされています。このような特徴から、腫瘍マーカーでがんかどうかを判断せず、ほかの検査結果も考慮して診断することが重要です。

ProGRPの基準値について

ProGRPの基準値は、81pg/ml未満を採用しているケースが多くみられます。

これは、2011年にProGRP研究会で検討し、設定されたという背景があるためです。しかし、46.0pg/ml未満を基準値として採用しているメーカーがあるなど、全国的な統一には至っていません。

そのため検査結果を見る時には、自分が検査を受けた医療機関の基準値はいくつになっているかを知り、その基準値に比べて高いか、低いかを考慮することが必要です。

ProGRPが高くなる原因

ProGRPは小細胞肺がんの腫瘍マーカーとご紹介しましたが、ほかにもProGRPが上昇する要因はいくつかあります。ProGRPが上昇する要因について詳しくみていきましょう。

小細胞肺がん

肺がんは、がんのもととなる細胞の種類によって大きく「小細胞がん」と「非小細胞がん」に分けられます。ProGRPが高値になる患者さんのうち、7割以上の人で小細胞肺がんが見つかるといわれています。

小細胞肺がんは、肺がんの中でも増殖が速く、転移しやすい特徴を持つがんです。喫煙との関連が大きく、受動喫煙であっても発症リスクが高まります。治療の際は薬による治療が中心ですが、ごく早期の場合には手術を行ったり、放射線治療を行ったりすることもあります。

非小細胞肺がん

肺の小細胞以外から発生する肺がんを、非小細胞肺がんといいます。ProGRPが高値の人のうち、肺非小細胞がんの人の割合は2~4%です。

非小細胞肺がんは、がんのもととなる細胞の種類によってさらに「扁平上皮がん」「腺がん」「大細胞がん」に分けられますが、治療方針としては同じです。早期に発見できれば治療の中心は手術です。手術後の再発防止のために薬による治療を行ったり、手術が難しい場合には放射線療法をしたりもします。

手術で取りきることができない場合には、放射線治療を中心に治療をすすめます。患者さんの体の状態が良ければ、薬による治療を一緒に行うこともあります。放射線治療の効果が期待できない場合、患者さんの体力的に放射線治療が難しい場合には、薬での治療が中心となります。

これらのがんも喫煙、受動喫煙によって発症リスクは高まります。肺がんというと咳や痰などの症状が現れるイメージがありますが、肺がんの中でももっと多い腺がんでは症状が出にくい特徴があるため、症状の有無にかかわらず精密検査や治療を受けることが大切です。

良性の呼吸器疾患

肺炎やぜんそくなど、がん以外の肺や気管支の病気でも、ProGRPが上昇することがあります。ProGRPが上昇している人のうち、5%はこれらの疾患が原因です。これらの病気も適切な治療を受けなければ命に関わることがあるため、精密検査や治療を受けることが大切です。

腎臓の機能障害

体の中で作られ血液中を漂うProGRPは、一部が腎臓でろ過され、尿として排泄されます。しかし腎臓の機能が低下してろ過機能が十分に働かなくなると、尿中にProGRPが排泄されなくなり、血液中のProGRPが増加します。

ProGRPが高値の人のうち、18%は腎障害によるものです。

そのため、ProGRPが高値で、「腎臓の機能が悪くなっている」といわれたことのある方は、がんの精密検査と同時に、腎臓の機能についても詳しく調べてもらうことが必要です。「特に体調に変化がないから」と腎臓の悪化を放置しておくと、将来的に人工透析が必要になる可能性があります。

検査の非特異反応(ひとくいはんのう)

非常にまれなことですが、患者さんと検査の試薬の相性により、実際には血液中でProGRPが増加していないにも関わらず、あたかも上昇しているかのような検査結果が出ることがあります。

これを「検査の非特異反応」といいます。この場合は、体の中にがんが隠れている可能性は低くなるといえるでしょう。

ProGRPを下げる方法は?

ご紹介したように、ProGRPが上昇する場合、背景に病気が潜んでいる可能性があります。そのため、まずは医療機関で適切な検査や治療を受け、病気の診断・治療を進めること大切です。

ただし、腎臓の機能が低下してProGRPが上昇している場合には、食生活の改善が治療の一環となります。そういう意味では、生活習慣を改善させることでProGRPの低下が期待できるともいえるでしょう。いずれにせよ、医師による診断を受けることが何よりも重要です。

ProGRPが基準値以上だった時の対策

ProGRPが基準値を超えた場合には、その原因を突き止めなければなりません。原因を知るためには、ほかにさまざまな検査が行われます。どのような検査が行われるか、具体的に見ていきましょう。

血液検査

全身の体の状態を把握するために、さまざまな血液の検査を実施します。特に腫瘍マーカーの検査は重要で、ProGRPと同様に小細胞肺がんで高値になるNSE、非小細胞肺がんで高値になるCEA、CYFRA、SCCは肺がんの鑑別にも有効です。ほかに、腎臓の機能が低下していないかも血液の検査で調べることができます。

尿検査

尿の中に含まれる成分を調べ、腎臓の状態を調べます。

胸部X線検査

いわゆるレントゲン検査のことで、肺にがんや肺炎を疑う所見がないかを調べます。X線を使うため、多少の被ばくがある検査です。

CT検査

体を輪切りにした写真を撮影し、肺や全身のがんの有無や広がりを調べます。造影剤を用いることで、より詳しく肺の状態がわかります。CT検査も多少の被ばくがありますが、ただちに健康被害が出るような心配はありません。

骨シンチグラフィ

放射性物質で印をつけた薬を体に注射し、骨にがんの転移があるかどうかを調べる検査です。骨にがんがある場合には、放射性物質で印をつけた薬がその場所に集まるため、転移の有無がわかりやすくなります。これはがんと診断されたのちに行われることが一般的です。

放射性物質を注射と聞くと健康被害が心配になりますが、非常に微量の被ばくで、すぐに体外に排出されるため、ほとんど心配はいりません。

病理検査

がんが疑われる部位から細胞や臓器の一部を採取し、顕微鏡で観察する検査です。この検査によって、がんの有無や小細胞がん、非小細胞がんの分類が確定します。

組織や臓器の採取方法は、たんの採取のほか、体の外から針を刺しての採取、内視鏡での採取、手術での採取などさまざまな方法があり、がんの部位や大きさに合わせた方法を選択します。

バイオマーカー検査

患者さんによっては、特定の遺伝子異常やタンパク質の異常をもつがんが発生することがあります。最近はこの特定の異常を狙った治療薬が開発されており、患者さん1人ひとりに合わせた治療薬を選択できるようになってきました。

患者さんによりあった薬を選択するために、病理検査と同じような方法で組織を採取し、特定の遺伝子異常やタンパク質の異常がないかを調べます。

医学書院「臨床検査データブック LAB DATA2019-2020」(高久史麿・監修)文光堂「人間ドック検診の実際」(日本人間ドック学会・監修)
株式会社ビー・エム・エル|「ProGRP」
株式会社エスアールエル|SRL総合検査案内「ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)」
シスメックス株式会社|Primary Care「ガストリン放出ペプチド前駆体」
国立がん研究センターがん情報サービス「肺がん」
日本腎臓学会|「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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