口腔がんの初期症状と検査方法、検診に掛かる費用とは

「口腔(こうくう)がん」は他のがんと比べてあまり聞きなれないと思います。しかし、実は年間15000名が口腔がんと診断され、その約半数が死亡している、という死亡率の高いがんです。

しかし、お口は普段から自分でも歯磨きの時に確認でき、初期のうちに治療をすれば、治癒する可能性も高いがんです。最近では口腔がん検診を行う歯科医院も増えてきました。

では、自分で確認するにあたり、どのような初期症状なのか、また検診などはどうなっているのかをみていきます。

目次

口腔がんの主な初期症状

口腔がんは、お口の中の歯以外ならどこからでもできます。舌が多く、次に歯ぐきや頰の粘膜にみられます。初期のうちは口内炎に似たようなものから、イボやおできのように外に膨らむものなど、いくつかの形があります。

クレーターのようにへこんでいる

口腔がんの初期段階で、このクレータータイプは、見た目が口内炎ととてもよく似ています。レーザー治療やステロイド軟膏を塗布したりしても治らない時は口腔がんを疑いましょう。タイムリミットは2週間です。2週間治療を受けても変化がない時は、口腔がんを疑ってさらなる精査を進める必要があります。

イボやおできに似ている

いわゆる「イボ」は乳頭腫もしくは線維種という病気で、良性の腫瘍です。しかし、口腔がんも初期段階では見た目がとてもよく似ています。違いは「大きくなるスピード」と「根元の硬さ」です。乳頭腫や線維種は、大きくなる速度がとてもゆっくりです。そして、根元にあたる部分も柔らかいことがほとんどです。一方、口腔がんでは根元にしこりを触れます。

口腔がん自己診断チェック

口腔がんかどうかを判断するチェックポイントがいくつかありますので、それぞれ説明していきます。ただ、症状が当てはまるからといって、必ずしも口腔がんというわけではありません。歯医者さんの診察・診断が必要です。

見た目

先ほども述べましたが、クレーターのような口内炎に似ていたり、イボやおできに似ていることが多いです。

触った感じ

口腔がんでは指で触ってみた時にクレーターの周囲、もしくはイボ・おできの周囲(一部、もしくは全周にわたって)に硬いしこり(硬結といいます)を触れることがあります。炎症(口内炎)でもできることはありますが、なかなか消えないときは口腔がんの可能性もあります。

痛みがある、しみる

よくあるのが、痛みに関する症状です。多いのは食事の時に刺激物がしみる、何もしなくても痛い、口が開けにくい、というのがあります。酢の物やしょうゆ、香辛料などが、以前は平気で食べていたはずが、食べると毎回とてもしみるようになります。

痛みに対しては痛み止めでコントロールしますが、市販のボルタレン、ロキソニンでも短い時間しか効かないようになると、より強力な鎮痛剤が必要にあります。

口内炎の治療を受けても消えない、大きくなる

クレーターのタイプの場合はごく初期の段階では口内炎と非常に似ています。まずは口内炎としての治療を開始します。ステロイド軟膏(デキサルチンなど)を塗ったり、レーザーを照射して治るかをみます。口内炎の場合は小さくなったりして、治りますが、口腔がんの場合は変化しないか、徐々に大きくなります。

舌が動かしにくい

舌の筋肉はのどの奥から繋がっています。舌がんの場合は、舌を動かす(しゃべる、飲み込む)時に痛みが出て動かせない、しこりのため硬くなって動きが悪い、という症状がみられます。

あごの下が腫れて、しこりを触れる

あごの下から首にかけては、リンパ節が多数あり、ウイルス、細菌をはじめ、口腔がんが全身に広がらないよう、いわば防波堤の役割をしています。口腔がんは首のリンパ節のどれかにはひっかかり、腫れて、しこりを触れるようになります。

どのくらいの期間は経過をみていいのか

口腔がんが強く疑われる場合、特に先ほど示した内容にいくつも当てはまる場合はすぐに歯科医院で相談すべきでしょう。

ステロイド軟膏やレーザー治療も、治療開始から2週間の間に治る気配がなければ、口腔がんを疑って歯科医院で相談、もしくは口腔外科のある大きな病院で相談しましょう。

口腔がん検診と検査項目

最近は、口腔がん検診を行う歯科医院が増えてきました。

問診

まず問診で生活習慣を確認します。特に喫煙歴(いつからか、毎日何本吸っているか)、飲酒歴(日頃どれくらい飲酒されるか、何年間飲酒されているか)、野菜の摂取状況(日々の食生活でどれくらい野菜を摂取しているか)などを確認します。

視診、触診

あごの下をさわってリンパ節が腫れているかどうか、腫れていた場合はその大きさ、癒着しているか、痛みがあるかを確認します。次にお口の中を確認します。一か所だけでなく、口腔がんが複数個見られることもありますので、お口の中の全体を確認します。

細胞診

どのような細胞がいるかを見ることができる一番簡便な検査です。病変を綿棒もしくは専用の棒でぬぐい、プレパラートに塗り広げて、顕微鏡で見ます。正常な細胞から、がん細胞までを5段階(ClassⅠからⅤ)に分類して評価します。5段階で真ん中(Class Ⅲ)未満であるClass Ⅰ、Ⅱは口内炎と考え、ステロイド軟膏やレーザー照射治療を行いながら経過を見ます。Class Ⅲ以上は悪性の病変である可能性が疑われるため、麻酔の注射をして組織の一部を切り取って来る組織診(生検)を行なう必要があります。組織診で病名がほぼ確定します。

口腔内蛍光観察装置

最近発売された医療機器で、青色LEDの光を当てると、口腔がんは光の反射が異なることを利用したカメラです。光を当てるだけなので、痛みもなく、その場でわかります。VELScope(ベルスコープ)、ORALOOK(オーラルック)、イルミスキャンという商品が流通しており、口腔がん検診に使う歯科医院が増えてきました。

検診に掛かる平均費用

歯科医院で行われている口腔がん検診の費用は、およそ3500円から10000円あたりが相場のようです。ホームページなどで口腔がん検診をしている歯科医院を見つけたら、事前に費用と検査内容を確認しておくといいでしょう。

口腔がんの疑いから確定診断まで

ここからは、口腔がんかも?という場合に、歯科医院から大きな病院に紹介されてどういう流れになるかを見ていきます。

がんの場合に確認すべきことは、(1)病変ががんかどうか、そしてどこまで広がっているのか、(2)首のリンパ節に転移がないか、(3)肺への転移がないか、(4)食道、胃にもがんがないか、の4つを順番に確認していきます。

がんかどうか、また広がりの確認

一番確実なのは組織を一部とって顕微鏡で見る生検(組織診)を行いますが、いきなり生検はしません。まず血液検査で全身状態を確認します。これは血液の病気がないか、またその後の検査のために全身状態に問題がないかのチェックで、主に貧血の有無、肝機能、腎機能などを確認します。

血液検査で問題なければ、病気の範囲をCTとMRIで確認します。CTは骨の状態やリンパ節の位置・状態を確認し、MRIで軟部組織(舌、粘膜などのやわらかいところ)の病変の広がりを確認します。これらの画像検査の後に生検をします。

首のリンパ節への転移の確認

次に(2)としてCTまたはMRIで調べることが一般的です。

肺などに転移していないかの確認

(3)の確認として、CTで調べることが一般的です。もしくはPET検査をする場合もあります。

胃カメラ(上部内視鏡検査)

生検で口腔がんの診断がついた方のうち、1割くらいの割合で、口腔から続く食道・胃にもがんが存在する場合があります(これを重複がんといいます)。この確認のため(4)として胃カメラ(上部内視鏡検査)をします。

これらまで行うと確定診断となり、その後の治療方針が決まります。
このように、多くの検査が続きますので、不明な点は主治医の先生にその都度確認してください。

一般社団法人口腔がん撲滅委員会 | 口腔がん検診・口腔健診の内容
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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