口腔がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

口腔がんは全身にできる悪性腫瘍のたった約1〜3%にすぎず、人口10万人あたり6名以下の「希少がん」の1つです。そのため、口腔がんと聞いてもあまりピンと来ない方が多く、「お口にがんができるのですか?」と思われる方も多いです。

しかし、最近は日本も高齢化社会が到来し、徐々に患者数は増えてきており、全国で15000名が口腔がんと診断され、そのうち半数近くの約7600名が死亡しています。とても恐ろしい病気ですが、早期発見・治療すれば、完治する可能性は格段に高くなります。

口腔がんとはどのようなものか、そして普段からできることを見ていきましょう。

目次

口腔がんとは

口腔がんは文字通りお口に出来るがんです。口腔には舌、歯肉(歯ぐき)、ほおの粘膜・筋肉、口唇、そしてあごの骨、唾液を作る唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)など、多種多様な構造物からなります。そしてこれら全てからがんが出来る可能性があります。

一番多いのは舌がん

一番多いのは、舌やほおなど表面の粘膜である「扁平上皮」という組織から発生する「扁平上皮がん」で、部位では舌に一番多く出来ます。つまり「舌がん」が一番多く、口腔がんの6割を占めます。舌は会話や食事でよく動かすため、歯、尖った被せ物、合わない入れ歯に何度も接触して刺激となり、がんができやすい、というわけです。

口腔がんの主な原因とリスクファクター

口腔がんの危険因子には、喫煙、飲酒、慢性の刺激、ウイルス感染、加齢などがありますが、科学的にその根拠がはっきり証明されているものは喫煙と飲酒くらいです。

喫煙

タバコの煙には4000種類以上もの化学物質が含まれ、その多くが発がんの原因になると言われています。最近は加熱タバコがいくつも販売されています。加熱タバコは紙巻きのたばこと比べて安全だという説もありますが、科学的に証明した報告はありません。また、その他大多数の化学物質は依然含まれていますので、有害性は紙巻きたばこと同様です。

また、タバコは吸う人だけでなく、副流煙がその周囲にいる人へ影響を与えます。

アルコール(飲酒)

アルコールそのものには発がん性はありませんが、体内で分解される際にできるアセトアルデヒドが発がんに影響すると言われています。飲酒する時にすぐ顔が赤くなる人、ぜんぜん表情が変わらない人がいるように、アルコールでがんができるリスクには個人差があります。なお、顔がすぐに赤くなる人の方がリスクが高くなります。

また、洗口液の中にはアルコールを含むものがありますが、このアルコールも発がんに影響するという報告もあります。

虫歯、尖った被せ物、合わない入れ歯

虫歯になって歯が欠けて尖っている部分ができていたり、以前の虫歯の治療で金属の詰め物・被せ物をされたことがあり、その端っこが尖っていたりすると、舌やほおの粘膜を傷つけて口内炎ができます。この状況で長期間、尖っている部分に刺激が加わると、口内炎がなかなか治らず、がんになることがあると言われています。

歯ぐきが痩せて、入れ歯とすき間ができたり、入れ歯のバネの歯が抜けてそのままにしていたりすると、お口を動かすたびに入れ歯が動き、舌やほおに当たります。この状態が続くと、口内炎からがんになることがあると言われています。

野菜の摂取不足

最近言われているのが、普段の食生活で野菜が少ない方に口腔がんが多い、というものです。普段の食生活の内容のバランスを見直し、積極的に野菜を取り入れていきましょう。

口腔がんになりやすい人の特徴

口腔がんは遺伝しません。つまり、誰でもなりうる可能性があります。どのような人になりやすいのでしょうか?

年齢や性別

年齢別では60歳代が一番多いのですが、下は10歳代から口腔がんの症例があります。性別では男女比が3:2と男性に多く見られます。

最近は少子高齢化、平均寿命が長くなってきていることから、高齢者で口腔がんができる割合も増えています。ただし全身状態良好で全身麻酔での手術が可能な状況なら、手術療法で治癒する症例も増えています。高齢というだけで手術の可否を決めることはない時代になっています。

前がん病変がある

前がん病変とは、文字通り「がん」になる前段階で、がんに変化する可能性が高い病変です。お口の領域では「白板症」と「紅板症」という病変が前がん病変とされています。見た目の特徴は、表面が平滑(なめらか)だけど、ガーゼなどでこすっても取れないもの、普通の粘膜より白い、もしくは赤みがあるものです。

この前癌病変を持っている患者さんのうち、3.1〜16.3%ががんになるという統計があります。

飲酒と喫煙

リスクファクターのところでお話ししたとおり、飲酒や喫煙の多い方、アルコールで顔が赤くなりやすい人は口腔がんになりやすいです。

野菜の摂取量が少ない人

普段の食生活で野菜が少ない人はリスクが高いと言われています。

口腔がんと口内炎の見分け方

初期の口腔がんは口内炎と見た目がとても似ていることがある

口腔がんは、ごく初期段階では口内炎と見た目がとても似ていることがあります。口腔がんより口内炎であることが多いので、まずはそのまま、もしくは口内炎の塗り薬をつけて経過をみることが多いと思います。歯科医師もその時期は見た目だけでは判断を迷います。

口内炎を見つけた時、まず塗り薬で様子を見ます。ただし期限は2週間です。塗っても変化がない、もしくはどんどんひどくなり、塗り薬が効いていないようでしたら、口腔がんの可能性があります。すぐに歯科医院を受診して相談し、専門の医療機関(大きな病院の口腔外科)での精査を受けましょう。

他にもこのような特徴があれば口腔がんかも

口腔がんは、口内炎のようにすこしへこんだようなものだけでなく、おでき(腫瘤)のように外に張り出すものもあります。このタイプの口腔がんの場合、その腫瘤そのものが周囲に比べてやや硬く、根元の周囲も少し硬い(硬結)です。表面もざらざらしていることがあります。また、痛みがあり、食事をすると今まで以上にしみて痛い、などが見られたら口腔がんの可能性を考えます。

予防と早期発見のコツ

予防はまず禁煙、そして節度ある飲酒です。

自宅でできる簡単なチェック

お口の中は自分で鏡を見てある程度の範囲が確認できます。

まず「イー」という口にして歯ぐきのおもて側全体を確認します。
次に口を大きく開けてほおの粘膜を確認します。
舌を前に突き出して、舌の表側を確認し、
大きく口をあけて舌で左・右の口の角(口角)を舐める時に舌の側面が確認できます。

最近は歯科用ミラーがAmazonなどの通販で安価に購入できるようになりました。このようなアイテムがあると、大きな鏡1枚だけでは見えない下の前歯の裏側なども見ることができます。

かかりつけの歯科医院を持とう

かかりつけの歯科医院を持ちましょう。自宅の近くや、職場の帰りがてら寄れる歯科医院がいいでしょう。そこで年に3−4回は歯石除去・歯のクリーニングをかねて歯科医に見てもらいましょう。

虫歯があれば、早めに処置してもらうことで歯の尖った部分をつくらずにすみます。また、詰め物、被せ物に尖った部分があれば、研磨や、修正をしてもらいましょう。入れ歯も歯ぐきとの間にすき間があれば、そこを埋める(クッションをひいてもらう)処置や、咬み合わせの調整をしてもらうことで、入れ歯のガタつきをなくしましょう。

定期的にチェックしてもらうことで、異変に早期に気づくこともでき、また自分の見えないところもチェックしてもらえます。

家族にも出来ていませんか?

最近は認知症の方も増えてきました。このような方々の中には、口腔内の異変を気づかない方もおられます。身内におられる場合は、家族が気にかけて日々の歯磨きと合わせてチェックするようにしましょう。

気になる病変があれば、早めに歯科医院で相談を

歯磨きをしていて気がついたり、出血や痛みが出たりして気になる部分があれば、早めに歯科医院で相談するようにしましょう。

口腔がんは他のがんと同じく、小さいうちに治療した方が治癒を目指せる疾患です。一方、がんが大きくなるにつれて手術内容が大掛かりになり、もしくは手術できない(手術してもがんを全て取りきれない)ために治療方法が限られ、不幸な転機を辿ることも少なくありません。ちょっと時間をとって相談することで、早めに解決させましょう。

一般社団法人口腔がん撲滅委員会 | 口腔がん検診・舌がん検診予約を歯科医院で
日本癌治療学会 | 口腔がん
黒川英雄, 他. 口腔白板症の臨床病理学的検討. 日本口腔科学会雑誌 47(1)61-67,1998.
日本口腔腫瘍学会 口腔がん診療ガイドライン改定委員会 / 日本口腔外科学会 口腔癌診療ガイドライン策定小委員会編 口腔癌診療ガイドライン2013年版 金原出版
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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