NSEの数値が高い原因と対策

NSEは腫瘍マーカーの一種で、主に神経芽腫と肺小細胞がんの患者さんで高値になります。しかし、NSE、神経芽腫、肺小細胞がんのいずれも聞いたことがないという人は多いです。さらに、必ずしも「NSEが高い=これらの病気」というわけではありません。

他の病気のこともありますし、実は採血の方法、検査に使用する試薬によって本当は体内で増えていないのに高い結果になることもあります。

今回はNSEが高値になった場合に考えられる病気や原因について解説します。さらにNSEを生活改善で下げることはできるのか、また今後どんなことをすればいいのかについてもご紹介しますので、参考にしてみてください。

目次

NSEとは

NSEとは神経細胞や、各臓器に存在する神経内分泌細胞(ホルモンを放出する細胞)、赤血球の中に存在する酵素です。

血液の検査で調べることが出来、医療の現場では腫瘍マーカーとして活用されています。腫瘍マーカーとは体の中にがんや何らかの病気がある場合に数値が高くなる項目のことです。そのため、NSEが高いときには神経細胞や神経内分泌細胞から発生したがんや病気が隠れていないかどうかを調べることになります。

NSEは病気の早期診断にはあまり役に立たないと言われており、NSEが高値の場合は病気が既に進行している状態である可能性があります。

基準値について

多くの医療機関ではNSEの基準値を16.3ng/mlとしています。しかしNSEの基準値は全国的に統一されていないため、各医療機関で採用している検査方法や機器によって、この基準値は異なっている可能性があります。検査結果を見る時には、様々な基準値を参考にするのではなく、自分が検査を受けた医療機関で採用している基準値を見ることが大切です。

また、基準値の設定は、健康な人の検査結果を基にして統計的に行われます。個人差によって健康であっても基準値よりも高い値になる人や、病気があっても腫瘍マーカーの数値が上昇しない人もいます。

そのため腫瘍マーカーの検査結果に一喜一憂するのではなく、再検査やNSE以外の検査も受けて総合的に体の状態を把握しなければなりません。

NSEが高くなる原因

NSEは神経細胞や神経内分泌細胞がもととなったがんが体の中に存在するときに数値が高くなります。高値になる具体的な例は、次に紹介するような疾患や体の状態、検査による影響ですが、特に神経芽腫や肺小細胞がんで高値となります。最近では前立腺がんに対して去勢療法中に神経内分泌化を来したときに上昇することもあります。

神経芽腫(神経芽細胞腫)

神経芽腫は小児がんの一種で、0~4歳児で診断されることが多いです。背骨に沿って存在する交感神経節という部位や、腎臓の上にある副腎という組織をはじめ、首や胸、骨盤などで発生します。患者さんによって進行が早い人もいれば、自然に退縮する人もいて、個人差が大きいがんです。

初期は無症状なことが多く、進行するとお腹が腫れたり、硬いしこりが触れるようになります。その他の症状は人によって多様で、次のような症状がみられることがあります。

  • 発熱
  • 貧血(顔色が悪い、息切れしやすい)
  • 血小板減少(血が出やすくなる、内出血しやすくなる)
  • 不機嫌
  • 歩かなくなる
  • 下半身まひ
  • 瞼が腫れる
  • せき
  • 肩や腕の痛み
  • 目をきょろきょろさせる
  • リンパ節が腫れる

肺小細胞がん

肺がんはがん細胞の特徴によって、腺がん、扁平上皮がん、大細胞癌、小細胞癌に分類されます。このうち小細胞がんは、増殖しやすく転移しやすいですが、比較的抗がん剤や放射線治療の効果も得られやすいがんです。

たばことの関連が強いと言われており、喫煙者はもちろん、受動喫煙の期間が長かった人も発症リスクが高まるとされています。早期ではほぼ無症状で経過しますが、進行とともに咳や痰(血が混じることもあります)、発熱、呼吸困難、胸の痛みなどの症状が現れます。

 

溶血した血液での検査の実施

採血を実施した際、うまく血液がとれないと、試験管の中で赤血球が壊れてしまうことがあります。このような状態を溶血(ようけつ)と言います。NSEは赤血球の中にも存在しているため、溶血が起こると赤血球内のNSEが血液の中へ漏れ出し、その結果、NSEが高値になることがあります。

検査の非特異反応

NSEの検査をする時には私たちの体の免疫のシステムを応用した方法で検査を行います。

予防接種などで抗体という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。抗体は、目的の物質に付着するタンパク質のことで、私たちの体の中にある抗体は特定の病原体に付着することで、その病原体を排除することができます。

NSEの検査では、次のように抗体を活用しています。

  1. 検査の試薬にNSEに付着する抗体をあらかじめ入れておく
  2. 採取した血液と試薬を混ぜ、NSEに抗体を付着させる
  3. NSEに付着した抗体の量を調べることで、NSEの量が分かる

抗体は、基本的に1種類の特定の抗体しか付着しないようになっていますが、ごくまれに目的の物質ではないものに付着してしまうことがあります。これを非特異反応といいます。

そうなると、実際には体内のNSEは増加していないのに、あたかもNSEが増加しているかのような検査結果になることがあります。

NSEを下げる方法は?

NSEは病気や検査の影響によって数値が上昇するので、生活習慣や体調によって数値の低下が見込めるものではありません。しかし先程も紹介したように、採血の不良や検査の試薬との相性もあります。これらが原因で数値が上昇している場合には再検査を受けることでNSEの数値が基準範囲内に下がることがあります。

NSEが基準値以上だった時の対策

NSEは基準値以上だった場合には、まずその原因を調べることが大切です。原因を調べるためには再検査を受けたり、精密検査で別な検査を受けたりして、病気があるのかどうかを確認します。検査の結果病気が見つかれば、その病気に対する治療を行います。

再検査の実施

NSEが高値の場合、本当に高値かどうかを確かめるために、再検査を行うことがあります。特に溶血や検査の非特異反応でNSEが高値になっている可能性がある場合には再検査を実施することが多いです。

溶血の可能性がある場合には、採血するスタッフにその旨を伝え、細心の注意を払って再採血を行うよう医師から指示します。検査の非特異反応が疑われる場合は、別な検査の試薬を使用することで結果が正しく得られることがあります。

他の血液検査や尿検査の実施

疾患によってはNSE以外の特徴的な物質が体内で増えることがあります。そのため、疑う疾患に合わせて次の項目について血液や尿の検査を行います。

画像検査の実施

CTやMRI、PETなどで全身の写真を撮影し、体内にがんがないかを調べます。この中で特に重要なのがCTの中でも造影CTです。造影CTは、造影剤という薬を点滴や注射で体内へ投与して行うCT検査で、わずかな病変や血管の変化をとらえやすくなります。

腫瘍は増殖のために自らの近くに血管を集めるという性質があるため、造影CTで血管の状態をとらえることはとても有用です。

病理検査の実施

病変を直接観察するには、病理検査を行うことになります。病理検査とは、異変がある組織を採取し、顕微鏡で観察する検査です。他の検査とは違い異変を直接観察できるために、病気の確定診断のために行われます。

ただし、NSEが高値となるような疾患では病変が体の深い部分にあることが多いので、全身麻酔での手術の際に病変の採取を行うことが多いです。そのため、治療としての手術と、検査としての組織の採取が同時進行で行われるというイメージになります。

金原出版 臨床検査法提要
文光堂 人間ドック検診の実際
学習研究社 エビデンスに基づく検査データ活用アニュアル
国立がん研究センター がん情報サービス
SRL総合検査案内 | NSE (神経特異エノラーゼ)
株式会社ファルコバイオシステムズ | 神経特異エノラーゼ(NSE)
希少がんセンター | 神経内分泌腫瘍
希少がんセンター | 神経内分泌がん
MBLライフサイエンス | 非特異反応の主な要因
公益社団法人 日本放射線技術学会 | CT検査
国立がん研究センター がん情報サービス | 神経芽腫〈小児〉
国立成育医療研究センター | 神経芽腫
京都府立医科大学 小児科学教室 | 神経芽腫
国立がん研究センター がん情報サービス | 肺がん
倉田宝保、松井 薫 | 小細胞肺がんの治療
難病情報センター | 内分泌疾患分野|褐色細胞腫(平成22年度)
MSDマニュアル プロフェッショナル版 | 褐色細胞腫
国立がん研究センター がん情報サービス | 甲状腺がん
長崎甲状腺クリニック大阪 | 甲状腺髄様癌
国立がん研究センター がん情報サービス | 甲状腺がん
SRL総合検査案内 | メタネフリン総
参照日:2019年7月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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