NCC-ST-439の数値が高い原因と対策

健康診断で「NCC-ST-439の数値が高い」という結果が出ると不安になりますよね。また、過去にがんの治療をしていたり現在も治療を続けていたりする人は「再発したのではないか」と思うのではないでしょうか。しかし、NCC-ST-439は妊娠やがん以外の病気などでも上昇することがあるため、一概にがんであると断定はできません。

今回は、NCC-ST-439が上昇する原因や上昇した場合の対処法についてご紹介します。
本ページを参考にした上で、精密検査を受けることをおすすめします。

目次

NCC-ST-439とは

NCC-ST-439は、乳がん、肺がん、消化器系のがんの腫瘍マーカーです。

腫瘍マーカーとは、体内にがんがあるときに血液中で増加することのある物質の総称で、がんの種類や発生する臓器によって数多くの腫瘍マーカーが知られています。

NCC-ST-439はさまざまな部位のがんで上昇することが多い一方、偽陽性(実際にはがんがないのに数値が上昇すること)が少ないという特徴がある腫瘍マーカーです。この特徴を生かし、他の腫瘍マーカーと一緒に測定することで、がんの診断に役立ちます。

医療の現場でNCC-ST-439は、特に乳がんの診察で有用性が注目されています。乳がんの転移や再発の際には上昇することが多く、また、手術後の経過をみる指標としも有用です。

NCC-ST-439の基準値について

NCC-ST-439の基準値は、次の数値を採用しているケースが多いです。

  • 男性(全年齢):4.5U/ml未満
  • 50歳以上の女性:4.5U/ml未満
  • 49歳以下の女性:7.0U/ml未満

若い女性ではNCC-ST-439の数値が高い傾向があるため、基準値が異なっています。人によってはがんや他の病気がない場合でも20~30U/ml程度の数値になることがあるため、この項目だけでがんがあると断定するのは大変リスクがあります。
さらに、妊婦もNCC-ST-439が上昇する傾向があります。

ただし、NCC-ST-439の基準値は全国的に統一されているわけではありません。そのため、受診する医療機関によっては異なる基準値を採用している可能性があります。
検査結果を見るときには自分が受診した医療機関で採用している基準値を確かめてから、その数値に比べて高いか低いかを確認しましょう。

NCC-ST-439が高くなる原因

さまざまながん

NCC-ST-439は、全身のさまざまな臓器で発生するがんが原因で上昇します。
上昇することの多いがんのタイプと、それぞれがん患者のうち腫瘍マーカーが上昇する人の割合は次のようになっています。

  • 乳がん:40%~
  • すい臓がん:60%
  • 胆道がん:50%
  • 大腸がん:30~40%
  • 肝臓がん:30%
  • 胃がん:20%

さらにこれらのがん以外でも肺がんや卵巣がん、子宮体がんなどのがんでも上昇するとされています。
NCC-ST-439の検査をするだけでは、どこの臓器に腫瘍ができているかまではわかりません。しかし、「体のどこかにがんがある」と知るためには大変有用な検査といえるでしょう。

消化器の良性疾患

がん以外の消化器のがんでも、NCC-ST-439が上昇することがあります。具体的には次のような病気です。

  • 慢性すい炎
  • 肝炎
  • 肝硬変
  • 胆石
  • 胆管炎
  • 大腸ポリープ

NCC-ST-439を下げる方法は?

基準値の項でもご紹介したように、若い女性や妊娠中の方ではNCC-ST-439が高値になる傾向があります。年齢を重ねたり、妊娠が終わったりした後には、NCC-ST-439が低下する可能性があります。

その他の原因でNCC-ST-439が上昇している場合には、残念ながら生活習慣でNCC-ST-439を下げるのは難しいでしょう。

特にNCC-ST-439は背景にがんが隠れていることを示す腫瘍マーカーなので、精密検査をきちんと行い、必要に応じた治療を受けることが大切です。

NCC-ST-439が基準値以上だった時の対策

血液検査

血液検査では全身の状態をみて、炎症の有無やどこの臓器が悪くなっているかを把握します。

さらにほかの項目の腫瘍マーカーを一緒に調べることで、どこの臓器にがんがあるのか目星をつけることも可能です。追加で検査されることの多い腫瘍マーカーは次のようなものがあります。

乳がんを疑う場合
CA15-3、CEA
すい臓がんを疑う場合
CEA、CA19-9、Span-1、DUPAN-2、CA50
胆道がんを疑う場合
CEA、CA19-9
大腸がんを疑う場合
CEA、CA19-9、p53抗体
肝臓がんを疑う場合
AFP、PIVKA-Ⅱ、 AFP-L3分画
胃がんを疑う場合
CEA、CA19-9
肺がんを疑う場合
CYFRA21-1、CEA、SLX、CA125、SCC、NSE、ProGRP
卵巣がんを疑う場合
CA125

単純X線検査

いわゆる胸のレントゲン検査や胃のバリウム検査のように、単純X線検査をして病気の有無を調べます。

超音波検査(エコー検査)

プローブと呼ばれる超音波を発する装置を体に当て、その音波の跳ね返りを画像化することで体の中を観察します。

すい臓、胆道、肝臓を観察する時にはお腹や胸のあたりにプローブを当てて、卵巣や子宮を観察する時には膣からプローブを当てて臓器を観察します。X線を使用しないため、被ばくの心配はありません。

内視鏡検査

消化管を観察する際には、口や鼻、肛門から内視鏡を挿入し、先端のカメラで直接臓器を観察します。病変の大きさや状態によっては内視鏡で病変の切除も可能です。

CT検査

全身を輪切りにした写真を撮影し、体のどこにがんがあるか、がんの大きさはどれくらいか、転移はあるかなどを調べます。検査の際に造影剤を使用することで、よりがんの姿をとらえやすくなります。

CT検査はX線を使用するため、多少の被ばくのある検査ですが、直ちに健康被害が出るような被ばく量ではありません。

MRI検査

MRI検査も、全身を輪切りにした写真を撮影し、体のどこにがんがあるか、がんの大きさはどれくらいか、転移はあるかなどを調べます。検査の際に造影剤を使用することで、よりがんの姿をとらえやすくなります。

MRI検査では磁力を用いて検査をするため、被ばくの心配はありません。CT検査よりも時間がかかるため、CTの代用として用いられることは多くはありません。またCTよりも解像度が低いことが多いです。

骨シンチグラフィ検査

放射線物質で目印をつけた薬を患者さんに注射して行う検査です。がんが骨に転移している箇所があるとその部分に薬が集まる特徴があります。X線撮影をして薬の集まっている場所を特定することで、骨への転移の有無がわかります。

放射線物質を注射するのは怖いイメージがありますが、用いる放射線の量は非常に少ない量です。さらにすぐに体外に排出されるため、それほど心配はいりません。

PET検査

主に放射性フッ素を加えたブドウ糖液を注射し、放射性物質の取り込みの様子を撮影してがん細胞の有無を調べます。

病理検査

がんが疑われる場所から細胞や組織を採取し、顕微鏡で観察してがんかどうかを調べます。
この検査は直接がん細胞を観察するため、がんの確定診断やがんのタイプを知るために有用な検査です。

細胞や組織の採取方法は臓器や患者さんの状態によってさまざまで、痰を採取する場合もあれば、針を刺して採取する場合、内視鏡を用いる場合、お腹を開ける手術の際に採取する場合もあります。

乳がんを疑うときに行う特徴的な検査

視診・触診

乳房の形や皮膚の変化などを観察したり、直接触ってしこりがあるかどうかを調べたりします。

マンモグラフィ検査

乳腺専用のX線検査です。乳房を上下左右からプレートで押しつぶした状態でX線検査を行い、がんの有無や大きさを確認します。

大腸がんを疑うときに行う特徴的な検査

カプセル内視鏡検査

カプセル状の小型の内視鏡を飲み、腸の中をカプセル内のカメラで撮影して病気の有無を調べます。

がん以外の病気と診断された場合でも、数か月後に再検査することも

冒頭でご紹介しように、NCC-ST-439はがん以外の病気で上昇することは少ないとされています。
そのため、精密検査を行ってがんが見つからなかった場合でも、念のため数か月後に再検査をすることがあります。

医学書院「臨床検査データブック LAB DATA2019-2020」(監修・髙久史麿)シスメックス株式会社
Primary Care「NCC-ST-439」株式会社ファルコバイオシステムズ
FALCO 臨床検査案内サイト「NCC-ST-439」
株式会社ビー・エム・エル|「NCC-ST-439」
株式会社エスアールエル|SRL総合検査案内「NCC-ST-439」
国立がん研究センターがん情報サービス 乳がん「検査・診断」
国立がん研究センターがん情報サービス 膵臓がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 胆管がん「検査・診断」
国立がん研究センターがん情報サービス 大腸がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 肝細胞がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 胃がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 肺がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 卵巣がん「検査」
国立がん研究センターがん情報サービス 子宮体がん「検査」
参照日:2020年5月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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