リンパ腫は細かく分類すると100近くの種類があり、それぞれの適切な治療は異なります。
リンパ腫は血液がんであり、腫瘍化した細胞は全身をめぐる可能性があるので、治療の基本は抗がん剤になり、必要に応じて放射線治療や手術を組み合わせていきます。
病院で治療方針の説明を受けるときには、自分の病気はどのタイプのリンパ腫で、どの部位にあって、どの範囲までひろがっていて、なぜその治療法がよいのか、その治療のメリットとデメリット、治療後の生活で変わることは何か、その治療以外の選択肢があるのかないのかといったことを聞くことも重要です。
目次
リンパ腫の主な治療法
悪性リンパ腫の治療は細胞の種類や病期のひろがり具合によって、抗がん剤、放射線治療、手術など、さまざまな選択肢があります。
また、病気の進行が遅いと考えられる場合には治療を行わず経過観察するという選択肢があるのもリンパ腫の治療の特徴です。
ここでは比較的頻度の多い、3つのリンパ腫の標準的な治療を紹介します。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
日本における非ホジキンリンパ腫の3割程度を占めるのがDLBCLです。
DLBCLの治療の中心になる化学療法はR-CHOP療法です。
R:リツキシマブ・・・分子標的薬。
腫瘍化したB細胞の表面にCD20抗原が認められた場合、このCD20に働きかけて、がん細胞の増殖を抑える効果がある。
C:シクロホスファミド・・・アルキル化剤。
がん細胞のDNAにアルキル基をくっつけ、DNAの構造を変化させる。
H:ドキソルビシン・・・トポイソメラーゼ阻害剤。
細胞分裂するときにDNAを切り離したり、再度結合するときに働くトポイソメラーゼという酵素の働きを阻害する。
O:ビンクリスチン・・・微小管作用薬。
細胞分裂に関係している微小管に働きかけて、がん細胞の分裂を妨げる。
P:プレドニゾロン・・・ステロイド。
リンパ腫を攻撃する作用と抗がん剤による副作用を軽減する(吐き気止めや食欲亢進などの)効果がある。
限局期(ステージ1、2)ではR-CHOPを3-4回繰り返した後に、局所的放射線療法を行います。
進行期(ステージ3、4)ではR-CHOPを6-8回行います。
ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫の治療の中心になる化学療法はABVD治療です。
A:ドキソルビシン・・・トポイソメラーゼ阻害剤。
細胞分裂するときにDNAを切り離したり、再度結合するときに働くトポイソメラーゼという酵素の働きを阻害する。
B:ブレオマイシン・・・抗がん性抗生物質。
がん細胞の中で鉄と結びつき、酸素を活性化してDNAを切断したり、DNAの合成を阻害する。
V:ビンブラスチン・・・微小管作用薬
細胞分裂に関係している微小管に働きかけて、がん細胞の分裂を妨げる。
D:ダカルバジン・・・アルキル化薬。
がん細胞のDNAにアルキル基をくっつけ、DNAの構造を変化させる。
限局期(ステージ1、2)の場合はABVD療法を2-4回程度行った後、局所放射線治療を行います。
進行期(ステージ3、4)の場合はABVD療法を6-8回行います。
胃MALT(マルト)リンパ腫
低悪性度のB細胞リンパ腫で、とくに胃に発生したMALTリンパ腫の半分以上はピロリ感染が原因と考えられています。その場合は、ピロリ菌を消す内服の除菌治療のみで改善する場合もあります。
手術のメリットとデメリット
リンパ腫の治療において、手術はオプション的な扱いになります。
手術がリンパ腫の中心治療とならない理由は、リンパ腫は血液のがんであり、目に見えるしこりが1つであったとしても、細胞レベルでは全身にひろがっている可能性があることから、手術でそのしこりだけを取り除いても完治と言い切れないからです。
手術方法は、摘出する腫瘍の部位によって、局所麻酔で行えるものから、全身麻酔が必要なものまでさまざまです。
手術のメリット
ほかのがんでは、手術は病気を切り取り、体から取り除くことが本来の目的ですが、リンパ腫の場合の手術の主たる目的は、細胞の種類を明らかにすることであり、どちらかというと治療よりも検査の意味合いが強いです。
もう1つの手術の目的としてはしこりによって物理的に現れている症状の改善があります。たとえば、腸にしこりができて、食べ物の通過障害が起きた場合、抗がん剤治療では即効性が期待できない場合、もしくは治療によりがんが体内から消えても、しこりだけはその大きさのまま残ってしまうことがあります。そのような場合、手術療法は即効性があり、すぐに症状の改善につながります。
手術のデメリット
手術の部位や切除する範囲によっては、後遺症やその後の生活の変化が必要になる場合があります。
また手術前にどんなに検査や準備をしても、100%安全な手術はありません。
手術や全身麻酔による合併症の危険性はゼロにはなりません。そのため、病院はあらゆる想定をもとに予防や術後の診察を行い、合併症を早期に発見し迅速に対応するようにしています。しかし、自分の体のことですからすべて病院任せにせず、自分でも合併症が起きた場合にすぐ気づけるように、自分の手術ではどんな合併症が起こりうるのかをきちんと聞いておきましょう。
比較的頻度の高い合併症は以下の通りです。
《手術中もしくは手術直後に起こりうる合併症》
- 出血:傷口からの出血などがあります。
- 創部感染:手術の傷に感染すること。
- 縫合不全:縫い合わせた部分がしっかりくっつかないこと。場合によっては再手術が必要になることもあります。
- せん妄:手術や入院のストレスなどの原因でおきる意識障害。意味不明な言動や幻覚・幻聴、暴れるといった異常行動がみられます。
抗がん剤のメリットとデメリット
抗がん剤
抗がん剤には点滴で行う方法や、内服の方法があります。
悪性リンパ腫に対する抗がん剤治療は、一般的に複数の抗がん剤を組み合わせておこなう多剤併用療法がおこなわれます。全身状態や使用する薬によって、入院で治療したり、外来通院で治療したりします。
抗がん剤の副作用は、投与当日に出現するものから、数カ月過ぎてから現れるものまでさまざまです。予想できる副作用にはあらかじめ薬を使って予防する場合もあります。
一般的な副作用は吐き気、嘔吐、下痢、口内炎、脱毛、発熱、骨髄抑制などがあります。
分子標的薬
がん細胞の増殖に関係した因子に働く薬で、抗がん剤と組み合わせて使用します。
よく使用される薬の1つは「リツキシマブ」です。
この薬はがん細胞が増殖する際に働くB細胞の表面のCD20という分子に働きかけて、がん細胞の増殖を抑える効果があります。CD20はB細胞の表面にしか存在しないので、リツキシマブの適応となる病態は「CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫」になります。
リンパ腫に使用される分子標的薬(一部)
- CD20陽性濾胞性リンパ腫:オビヌツズマブ
- CD30抗原陽性:ブレンツキシマブ
- CCR陽性T細胞:モガブリズマブ
分子標的薬による治療は、主に再発した症例に対して使用されます。
分子標的薬の副作用ではインフュージョンリアクションがあります。これは薬を投与した直後、もしくは24時間以内に発生する発熱、頭痛、発疹、喉の違和感、血圧低下、呼吸困難といったアレルギー反応です。この副作用は1回目の分子標的薬投与でとくに起こりやすいと報告されています。
その他には肺障害や心臓障害が起きることもあります。
免疫チェックポイント阻害薬
がんを攻撃することができるTリンパ球の力を強める薬です。
一部のがん細胞ではPD-L1という物質を産生し、これがTリンパ球と結合することで、Tリンパ球の働きを弱めることが判明しています。
現在リンパ腫の治療として承認されている抗PD-1抗体のニボルマブやペムブロリズマブはこのがん細胞がTリンパ球を弱める作用を阻害することで、がん細胞に対する免疫力を高める効果があります。
現在リンパ腫に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は、再発、もしくは標準治療で効果が得られなかったホジキンリンパ腫に限って使用することができます。
抗がん剤のメリット
抗がん剤は全身に効果を発揮するため、目で見ることができないごく小さながん細胞に対しても効果を発揮します。
とくにリンパ腫は血液がんであり、画像検査で見えていない部分にもがん細胞が存在している可能性があるため、リンパ腫の標準治療は抗がん剤になります。
抗がん剤のデメリット
抗がん剤の作用は正常な細胞までおよぶため、吐き気、下痢、口内炎、脱毛といった副作用の症状が現れることがあります。
また、自覚症状がなくても血液検査や画像検査を行わないとわからない副作用もあるため、定期的に検査を行って経過を見ていく必要があります。
使用する薬によって出現しやすい副作用はわかっているため、あらかじめ副作用が出にくいように予防薬を使用することもあります。
放射線治療のメリットとデメリット
放射線は限られた部位に放射線をあてることでがん細胞を破壊する効果があります。
放射線は限られた範囲にしか治療効果が得られない反面、全身的な副作用が抗がん剤と比較して出にくいため、高齢者などでも検討できる治療方法です。
放射線のメリット
治療そのものはじっと寝ているだけで行うことができるので、高齢者や体力低下、肝機能障害・腎機能障害などがあっても行うことができます。
放射線のデメリット
放射線治療にも副作用はあり、局所的には放射線をあてた部位の皮膚炎や粘膜炎が起きる可能性があります。全身的には倦怠感や吐き気、嘔吐、食欲不振や白血球減少などがあります。全身的な副作用は治療終了後1カ月程度で改善します。
その他の治療法
経過観察
病変が小さく、進行が遅い低悪性度の場合は、病気が進行するまで定期的に検査で経過をみる、経過観察となることもあります。
造血幹細胞移植
抗がん剤治療や放射線治療などで造血障害をきたした場合、早期に骨髄の機能を回復させる目的で、造血幹細胞の投与をスケジュールに組み込むことがあります。
造血幹細胞は治療前に患者自身から採取しておく場合(自家移植)と、他人から提供を受ける場合(同種移植)があります。
自家造血幹細胞移植(自家移植):末梢血
同種造血幹細胞移植(同種移植):骨髄、末梢血、臍帯血
自家移植はあらかじめ患者自身の骨髄や血液から造血幹細胞を採取して、あとから患者の体に戻す方法です。
同種移植とは、患者以外の人から造血幹細胞を採取して、患者の体に入れる方法です。HLAの一致した人からの提供が必要なため、場合によっては提供者が見つからない場合もあります。
造血幹細胞移植の副作用としては移植片対宿主病(GVHD)があります。とくに同種移植の際に多くみられる反応で、他人から提供された血液は患者の体内に入ると、患者の体を攻撃する反応を起こします。この反応が重篤な場合は命に関わることもありえます。
この反応をおさえるため、造血幹細胞移植後3週間程度は患者自身の免疫を抑える必要があり、この間は感染症にかかりやすくなります。必要に応じて無菌室に入るなどの対応を行います。
臨床試験
標準的な治療として確立されてはいませんが、理論上リンパ腫に効果が期待できる治療を受けることができます。限られた病院で実施されています。
緩和ケア
一昔前、緩和ケアは治療法のないがん患者に対して行われるといったイメージでしたが、最近ではすべてのがん患者において肉体的・精神的サポートを行うために緩和ケアが重要と考えられています。
そのため、「あなたには緩和ケアが必要です」と言われても、早とちりして「私はもう治療できないんだ」と思わないでください。治療が順調に進んでいても、がん患者さんの多くはがんと宣告されたときから様々な不安を持っています。そしてがんによる症状、治療による副作用、治療後の後遺症に悩む方もいます。そのような肉体的・精神的ケアを行うのが現代の緩和ケアです。
「がんと言われて不安だ」「抗がん剤の治療をしているから吐き気くらいは我慢しなければならない」「治療費がどのくらいか心配だ」といったがんにまつわる様々な不安・症状を取り除くのが緩和ケアです。
リンパ腫の再発や転移について
リンパ腫の再発
リンパ腫は全身どこにでも発生する疾患であり、治療を行ってもがん細胞が1つだけでも残っていれば再発の可能性があります。
しかし、リンパ腫の再発の有無を判断するためには目に見える大きさにならないと判断できません。そのため、リンパ腫は治療中や治療後もきちんと病院の指示通り検査を受ける必要があります。
リンパ腫が再発する場合は、多くが2年以内に再発するので、この期間はきちんと検査を受けましょう。その後もまれに再発することはありますが、治療後4年間問題がなければその後も再発率は1%以下という報告もあり、治療はひとまず4年以内の再発がないことを目指して行われます。
リンパ腫の転移
リンパ腫は血液がんであり、もともと体のどこにでも発生しうる病気ですが、リンパ外臓器の転移先としては肺や肝臓に多いという報告があります。これらの臓器はリンパ腫と診断された際に、レントゲンやCTなどで病変がないか画像検査を行なう部位になります。
1.日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版補訂版|第Ⅱ章 リンパ腫
2.藤元メディカルシステム|抗悪性腫瘍薬~各論2~
3.グループ・ネクサス・ジャパン|リンパ腫患者や家族の皆さまを対象とした免疫チェックポイント阻害剤に関する情報提供について
4.国立成育医療研究センター|リンパ腫 Q&A|リンパ腫は治るのですか?