悪性リンパ腫になりやすい人の特徴や原因リスクについて

悪性リンパ腫は血液がんの1つで、そのため全身のどこにでも発生する可能性のあるがんです。名前に「悪性」とついているので、怖い病気の印象があるかもしれませんが、実際は100を超える種類があり、病気の特徴はそれぞれによって異なります。

ここでは悪性リンパ腫がどんな病気なのか、悪性リンパ腫になりやすいのはどんな人なのか、そして悪性リンパ腫の予防について紹介します。

目次

悪性リンパ腫とは

概要

悪性リンパ腫は血液がんの1つで、白血球の1種であるリンパ球ががん化したものです。

リンパ球とは体内に細菌やウイルスなどの異物が侵入してきたときに、体を守る、免疫をつかさどる役目があります。リンパ球はさらにB細胞やT細胞、NK細胞などの種類があるため、悪性リンパ腫は細かく分類することができ、実際には100種類近くに区別されます。

Bリンパ球
ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると抗体を産生します

Tリンパ球
体内に侵入してきた病原体を記憶し、次に同じ病原体に感染したときに素早く対応します

NK細胞
ウイルスや細菌などの病原体に感染した細胞を攻撃します

悪性リンパ腫はリンパ系組織に発生する場合と、リンパ外臓器に発生することがあります。

リンパ系組織とはリンパが流れるリンパ管やリンパ節、その他に免疫にかかわる胸腺や扁桃、脾臓などが該当します。リンパ管やリンパ節は全身にあるため、悪性リンパ腫は体のどの部分からでも発生する可能性があります。リンパ外臓器は肺、肝臓、胃、皮膚などです。

悪性リンパ腫の分類

悪性リンパ腫にはさまざまな分類がありますが、治療を考えるにあたっては、まず「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」に分けて考えます。

ホジキンリンパ腫には「古典的ホジキンリンパ腫」と「結節性リンパ球優位性ホジキンリンパ腫」があり、そこからさらに細分化されています。非ホジキンリンパ腫には「B細胞リンパ腫」「T細胞リンパ腫」「NK細胞リンパ腫」などがあります。

悪性リンパ腫と診断されると、この細胞による分類と、病気のひろがり(ステージ)を基本に、治療方針が決定されます。

悪性リンパ腫の主な原因とリスクファクター

ウイルス感染

悪性リンパ腫の一部はウイルス感染が原因と考えられています。

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病リンパ腫の原因になると考えられています。またEBウイルスはほとんどの人が一度は感染するありふれたウイルスですが、多くの人では感染してもウイルスをすぐに排除することができます。

しかし、まれにリンパ球の1つであるB細胞にEBウイルスが感染し続けることがあり、その結果ホジキンリンパ腫やバーキットリンパ腫などを引き起こすと考えられています。

非ホジキンリンパ腫の患者にはB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)の感染者が多いという報告もあります。これらの傾向は日本でも同様にみられ、HBVに感染していることをしめすHBs抗原が陽性の人は、陰性の人と比較して2倍、悪性リンパ腫になりやすいと報告されています。

さらに非ホジキンリンパ腫に限れば、HBs抗原陽性者は陰性者と比較して3.6倍、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫では7.2倍もの差が見られました。

HCVに関しても非ホジキンリンパ腫の患者の16%がHCV感染者であったという報告があります。その機序としてHCVに感染するとBリンパ球が増殖する反応を起こし、それがリンパ球の腫瘍化を引き起こしていると推測されています。

これらのウイルスは感染したらすべての人がリンパ腫になるわけではありません。

ピロリ菌感染

胃のマルト(MALT)リンパ腫の患者の約90%はピロリ菌に感染しています。

ピロリ菌は胃に感染して炎症を引き起こす細菌で、感染した胃は慢性胃炎を経てマルトリンパ腫を発症すると考えられています。

染色体異常

悪性リンパ腫の細胞には染色体異常が見つかる場合があります。

染色体異常をきたす原因としては加齢、慢性炎症、放射線などが考えられています。リンパ腫の場合は生まれる前からの染色体異常が原因ではなく、生まれてからの原因でおきる染色体異常であるため、染色体異常が原因のリンパ腫であっても親から子に遺伝する病気ではありません。

飽和脂肪酸の摂取

肉類などの動物性食品に含まれる飽和脂肪酸は慢性炎症を引き起こし、発がん作用があると考えられています。実際に食事内容と悪性リンパ腫の発生について行われた調査では、総脂肪酸摂取量と飽和脂肪酸摂取量が多いと非ホジキンリンパ腫を発症する危険性が増加したことが報告されています。

その他

その他に、慢性関節リウマチなどの自己免疫性疾患、免疫不全を引き起こすメトトレキセートなどの薬剤、農薬などに使用される2-ブロモプロパンなどの化学物質への曝露でも悪性リンパ腫の発生が増えると報告されています。

悪性リンパ腫になりやすい人の特徴

年齢

ホジキンリンパ腫は20-30才台の若い人で発症しやすく、非ホジキンリンパ腫は小児では10歳前後、成人では50歳前後で多くみられます。

高身長(男性のみ)

身体的特徴とリンパ腫の関係性を調査した報告では、男性に限定した関係でしたが、身長の高いグループは低いグループと比較してリンパ腫の発生リスクが高いという結果になりました。

この理由として成長期におけるインスリン様成長因子(IGF)などのホルモンの関与が推測されています。

エストロゲン

リンパ腫を発症しやすい女性の特徴を調べた報告では以下の傾向が見られました。

  • 出産経験がある女性
  • 初潮年齢が高い
  • 月経周期が27日より短い

このような結果になった理由として、女性ホルモンのエストロゲンの関与が考えられています。エストロゲンが増加すると体内では一時的に抗体の産生機構が活発になり、免疫機能の変化が起こります。

タバコとリンパ腫の関連性

喫煙と悪性リンパ腫との関連性を調査した報告では、ホジキンリンパ腫では明らかな関係性を認めなかったものの、非ホジキンリンパ腫では喫煙によって発症リスクが増加し、とくに女性では、喫煙を継続している人は喫煙したことがない人と比較して2.3倍の発症リスクがありました。

リンパ腫の1つである、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)も喫煙により発症リスクが増加するという報告があります。ATLLはもともとHTLV-1というウイルスに感染した人から発症するリンパ腫ですが、HTLV-1ウイルスに感染した人全員が発症するわけではなく、ウイルス感染後少なくとも5つ以上の遺伝子異常が起きないと発症しないと考えられています。

日本人を対象とした調査では、タバコを吸わない人のATLL発生率を1.0とした場合、1日の喫煙本数が20本増えるごとにATLLの発生リスクは2.03倍になると報告されています。
喫煙は遺伝子異常のきっかけになる行為であり、そのためATLLの発生率を増加させていると考えられています。

予防と早期発見のコツ

悪性リンパ腫の予防

悪性リンパ腫にはざまざまな要因があり、何か1つ気をつければ防げるというものではありません。

しかし、自分がリンパ腫になりやすい体質なのかどうか知っておくことは重要です。

たとえば感染症の有無はいつでも検査が可能です。成人T細胞白血病リンパ腫の原因になりうるHTLV-1は、日本では九州、沖縄、高知などに感染者が多く見られます。今はこの地域に住んでいなくても、近い身内がこの地域の出身の場合は、一度血液検査でHTLV-1感染を調べておくと安心でしょう。同様に血液検査ではHBV、HCV感染も調べることができます。

胃MALTリンパ腫の原因になるピロリ菌は血液検査や便の検査、呼気法などで調べることが可能です。ピロリ菌はほとんどが幼少期の感染で、大人になってから感染することはほとんどないことから、通常は成人になってから1回だけ調べれば大丈夫です。

早期発見のためには

リンパ腫は全身のどこにでも発症する可能性がある病気のため、リンパ腫を疑って検査を行うには全身を調べる必要があります。

実際には、何らかの症状があって検査をしたらリンパ腫と判明したり、偶然しこりが見つかって精密検査をしたらリンパ腫と判明することが多いです。早期発見のためには、気になる症状があるときに早めに病院受診すること、また健康診断は市民検診よりも広い範囲の画像検査が行われる人間ドックの方がお勧めです。

また、生活習慣では肉の加工食品の摂取を控え、タバコを吸っている人は禁煙しましょう。

1.リンパ腫のお話 武田薬品工業株式会社|リンパ腫とは リンパ球の役割
2.国立がん研究センターがん対策研究所|B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス感染者の悪性リンパ腫リスク
3.奈良県立医科大学|C型肝炎ウイルス(HCV)感染と非オジキリンパ腫に関する一考察
4.リンパ腫のお話 武田薬品工業株式会社|リンパ腫とは リンパ腫の原因
5.国立がん研究センターがん対策研究所|肉類、魚類、および脂肪酸摂取と非ホジキンリンパ腫罹患との関連
6.慶應義塾大学医学部 血液内科|悪性リンパ腫
7.厚生労働省|がん原性試験結果の概要|試験結果
8.国立がん研究センターがん対策研究所|体形とリンパ系腫瘍の発生との関係について
9.国立がん研究センターがん対策研究所|女性生殖関連要因とリンパ腫罹患リスクとの関連について
10.一般社団法人広島県医師会|たばこ害一般(その3)
11.国立がん研究センターがん対策研究所|喫煙と成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)発症との関連について

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医