ヒスロンHが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

ヒスロンHはホルモン療法として「乳がん」などの治療に用いられる抗がん剤です。
乳がんなど女性ホルモンの影響を受けて増殖するがんは、ヒスロンHなどのホルモンの分泌を抑える「ホルモン療法」が非常に有効であるとされています。
また、ホルモン療法は化学療法剤と比較すると副作用の頻度が低く、患者さんにとって身体的負担が低い薬剤であると言われています。
一方で、重大な副作用として頻度は低いものの、命にかかわる脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症が報告されていますので注意が必要です。

このページでは、このような抗がん剤「ヒスロンH」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

ヒスロンH(一般名:メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)とは

ヒスロンHは、1958年の同時期に欧州と米国で別々に合成された抗がん剤です。
日本ではイタリアの企業(現ファイザー社)より導入し、輸入承認を受け1967年に発売開始になっています。

ヒスロンHが適応となるがんの種類

ヒスロンHが適応を持つがんは「乳がん」と「子宮体がん(内膜がん)」です。

乳がん

通常成人1日600~1200㎎を3回に分けて内服します。

子宮体がん(内膜がん)

通常成人1日400~600㎎を2~3回に分けて内服します。

なお、患者さんの症状により投与量は適宜増減されます。

ヒスロンHに期待される治療効果

ヒスロンHは「ホルモン剤」というグループに属し、女性ホルモンの一種である黄体ホルモン(プロゲステロン)に作用する抗がん剤です。
脳下垂体などに働きかけてホルモンの分泌を抑制し、女性ホルモンに依存する乳がんや子宮体がんの増殖を抑制する効果が期待できる抗がん剤です。

ヒスロンHの治療効果を示す「有効率」は以下の通りです。
「有効率」とはがんが縮小した患者さんの割合です。
〇乳がんに対する効果(国内臨床試験)
有効率:33.2%
〇子宮体がんに対する効果(国内臨床試験)
有効率:23.6%

主な副作用と発現時期

ヒスロンHはホルモン剤であるため、化学療法剤であらわれるような血球減少などの骨髄障害や脱毛などの重い副作用が少ないことが特徴ですが、ホルモンの分泌を抑えるという作用からホルモン剤に特徴的な副作用が現れます。

主な副作用(承認時までの調査及び市販後の使用成績調査の集計)

・体重増加:13.0%(532/4104例)
・満月様顔貌:6.19%(254/4104例)
・子宮出血:5.53%(227/4104例)
・浮腫:1.54%(63/4104例)
・血栓症:1.37%(56/4104例)
・月経異常:1.07%(44/4104例)

これら副作用の発現時期は患者さんによって異なり、投与初期に現れる方や投与から1年以上経過してから現れる方もいますので投与中は常にご自身の変化に注意が必要です。
また、患者さんによって副作用の重さも異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながら生活することをおすすめします。

脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症、腸間膜血栓症、網膜血栓症、血栓性静脈炎などの血栓症が現れることがあります。足の痛みやむくみ、胸の痛み、血を吐く、息切れ、息苦しさなどを感じた場合は初期症状である可能性がありますので、すぐに医師に報告し、適切な処置を受ける必要があります。

ヒスロンHの安全性と使用上の注意

ヒスロンHを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

治療出来ない患者さん

・血栓症を起こす可能性の高い、次のいずれかに該当する患者さん
手術後1週間以内の患者さん
脳梗塞、心筋梗塞、血栓静脈炎等の血栓性疾患またはその既往歴のある患者さん
動脈硬化症の患者さん
心臓弁膜症、心房細動、心内膜炎、重篤な心不全等の心疾患のある患者さん
ホルモン剤(黄体ホルモン、卵胞ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)を投与している患者さん
・妊婦、または妊娠している可能性のある患者さん
・ヒスロンHの成分に対し過敏症の既往歴のある患者さん
・診断未確定の性器出血、尿路出血、乳房病変のある患者さん
・非常に重い肝障害のある患者さん
・高カルシウム血症の患者さん

重要な基本的注意

・ヒスロンHの投与により、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓等の重い血栓症が現れることがあるので、次のことに注意が必要です
FDP、α2プラスミンインヒビター・プラスミン複合体等の検査を行い、異常が認められた場合は投与することはできません
血栓症の危険因子の有無について十分注意する必要があります
治療中は定期的にFDP、α2プラスミンインヒビター・プラスミン複合体等の検査を実施し、異常が認められた場合投与は中止されます
・ヒスロンHを長期間大量に投与すると副腎皮質ホルモン様作用が現れることがありますので、十分な観察が必要です

使用上の注意

・血栓症を起こす可能性が高い、次のいずれかに該当する患者さん
手術後1か月以内の患者さん
高血圧症の患者さん
糖尿病の患者さん
高脂血症の患者さん
肥満症の患者さん
・腎障害・心障害のある患者さん:ナトリウムまたは体液の貯留が現れることがあります
・うつ病またはその既往歴のある患者さん:症状が悪化する可能性があります
・てんかんまたはその既往歴のある患者さん:副腎皮質ホルモン様作用により、症状が悪化する可能性があります
・片頭痛、喘息、慢性の肺機能障害またはその既往歴のある患者さん:症状が悪化する可能性があります
・ポルフィリン症の患者さん:症状が悪化する可能性があります

ヒスロンHなどのホルモン剤は比較的抗がん剤の効果が高く、副作用も少ないため長く治療を続ける事が出来るとされています。一方で、今回解説したように「血栓症」のリスクを伴う抗がん剤でもありますので、血栓症の徴候を見逃さず生活することが重要になります。
血栓症の最大のリスクは「生活習慣病」となりますので、治療中でも可能なら、適度な運動と和食を中心とした食事をとることを継続しましょう。

これからヒスロンHの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとたってもこの記事が参考になれば幸いです。

ヒスロンH添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/230124_2478002F3056_3_06#WARNINGS
ヒスロンHインタビューフォーム
https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/3/230124_2478002F3056_3_004_1F.pdf
ヒスロンHくすりのしおり
http://www.rad-ar.or.jp/siori/kekka.cgi?n=34791
ヒスロンH患者向医薬品ガイド
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/230124_2478002F3056_3_00G.pdf

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薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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