フェマーラは乳がんのホルモン療法として用いられる抗がん剤です。乳がんは5年から10年といった長期に渡り治療を行うことが一般的とされていますので、患者さんへの負担や副作用の頻度が少ないフェマーラなどの内服薬ホルモン療法が選択されます。
多くの乳がんにおいて、女性ホルモンによる影響によりがんが進行してしまうことが分かっていますので、女性ホルモンの分泌を抑えるホルモン療法が効果的とされています。
「女性ホルモン」は、閉経前と閉経後では体内で生成される場所が異なりますので、患者さんに合致した薬剤を選択しなければなりません。
フェマーラは閉経後乳がんの患者さんに有効な抗がん剤であり、閉経前の患者さんには使用できませんので注意が必要です。
このページでは、抗がん剤「フェマーラ」に注目して、治療ができるがんの種類やそれぞれの治療効果、また副作用についても詳しく解説していきます。
目次
フェマーラ(一般名:レトロゾール)とは
フェマーラはスイスに本社を構えるノバルティスファーマ社が開発した抗がん剤で、一般名をレトロゾールといいます。世界で初めてフランスで承認されてから1996年より販売開始されており、現在は世界約100か国で承認されています。日本では2006年に承認されました。
日本での承認が大きく遅れた理由としては、当初日本人を対象とした臨床試験で実施されていた用法用量よりも、倍以上の用法用量で行われていた海外での大規模臨床試験において有効性が先に認められたためです。その為、急遽日本においても用法用量を変更して臨床試験が再度実施され、日本人での有効性と安全性が確認され承認に至りました。
フェマーラが適応となるがんの種類
フェマーラは、閉経後乳がんの患者さんに効果がある内服の抗がん剤です。
通常、1日1回1錠(2.5mg)を服用します。飲み忘れた場合には、気付いたときに服用しますが、次回の服用時間が近い場合には1回分を飛ばすようにします。
短い時間に繰り返し服用する事により、強い副作用が現れることがありますので注意が必要です。
フェマーラはPTP包装されている薬剤です。
PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜に刺さり重大な事故につながる可能性がありますので、必ずPTPシートから取り出してから服用するようにします。
フェマーラに期待される治療効果
フェマーラが適応を持つ「閉経後乳がん」の患者さんにおいては、乳がんの増殖に影響を与える女性ホルモンが「脂肪細胞」という場所で生成されます。フェマーラは脂肪細胞での作用が期待される薬剤で、女性ホルモンの分泌を抑える抗がん剤となります。
フェマーラは、閉経後乳がんが進行・再発した場合だけではなく、乳がんの摘出手術をする前に投与される場合があります。それぞれの有効性について、当時ホルモン療法の標準治療であったタモキシフェンと比較した臨床試験が実施されています。
フェマーラとタモキシフェンの比較試験について
当時の標準治療であったタモキシフェンとの比較
乳がんの患者さん907例を対象に行われ、標的のがんが小さくなった患者さんの割合を示す奏効率はフェマーラで32%という結果が得られ、一方のタモキシフェン21%に対し有意にがんの縮小効果が示されました。
術前ホルモン療法としての比較
術前ホルモン療法とは乳房の温存手術を目標として、手術前にがんを小さくする目的で実施される治療方法です。術前ホルモン療法が予定された患者さん337例を対象に実施された臨床試験において、フェマーラの乳房の温存手術施行率は45%であり、一方のタモキシフェン35%に対し有意に高い結果が示されました。
主な副作用と発現時期
フェマーラはホルモン剤であるため、化学療法剤であらわれるような骨髄障害や脱毛などの重い副作用が少ないことが特徴です。
骨髄障害とは、白血球や血小板などが新しく体内で作られにくくなってしまうことを言います。特に白血球数が低下すると免疫力が落ちてしまい、感染症を合併しやすくなり命にかかわる場合もありますので、血液検査を行い数値や状態などをしっかり確認する事が重要です。
主な副作用
国内臨床試験で確認された主な副作用を解説していきます。
対象となった患者さんは290例で、そのうち119例の患者で副作用が認められ、発現率は41%でした。
- ほてり:6.6%(19/290例)
- 頭痛:3.1%(9/290例)
- 関節痛:2.8%(8/290例)
- 悪心2.4%(7/290例)
- 発疹2.1%(6/290例)
- そう痒症2.1%(6/290例)
- 流動性めまい1.7%(5/290例)
これら副作用の発現時期は、服用期間中にわたって現れる事が確認されており、患者さんによっては遅い時期にあらわれる方、1日目からあらわれる方とさまざまです。
これらの主な副作用の他に、特にフェマーラを長期に渡り飲まれている方はホルモンバランスの変化によるストレスや不安感などを感じる事があるかもしれません。その場合は、主治医や看護師、薬剤師にすぐ相談して、解消できるように対策する事が重要です。
フェマーラの安全性と使用上の注意
フェマーラを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
治療できない患者さん
- 妊娠又は妊娠している可能性がある患者さん:動物実験において胎児の死亡や催奇形性が報告されています。
- 授乳中の患者さん:動物実験で、乳汁への移行が確認されています。
- フェマーラに過敏症がある患者さん:再度使用する事で命にかかわる重いアレルギー症状が現れる場合があります。
重要な基本的注意
- フェマーラの服用により、疲労やめまい、眠気などが現れる場合がありますので、車の運転や機械の操作などには注意が必要です。
- フェマーラの投与により骨粗しょう症や骨折などが起こりやすくなりますので、定期的な骨状態の検査を行う必要があります。
使用上の注意
- 高齢者の患者さん:一般的に高齢の患者さんでは生理機能が低下していると言われていますので、重い副作用が現れる場合があります。
フェマーラは、抗がん剤の中でもホルモン療法という治療方法で、従来の化学療法と比較すると副作用の発現が低いことが特徴であり、患者さんの負担が比較的少ないとされる抗がん剤です。しかし、フェマーラを長期に使用される患者さんにおいては、ホルモンの分泌低下に伴い骨粗しょう症など骨が弱くなってしまうことが報告されており、骨折などに注意が必要です。
骨粗しょう症の予防には食事療法や運動療法が効果的であるとされていますので、骨を作るカルシウムやビタミンD、ビタミンKを多く含む乳製品や魚類、緑色野菜を積極的に摂取し、ウォーキングやランニングなどの軽い運動を取り入れましょう。また、日光浴によりカルシウムの吸収を良くするビタミンDが活性化されますので、適度な日光浴を取り入れても良いでしょう。
これからフェマーラの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにも参考になれば幸いです。
フェマーラ添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4291015F1026_1_06/
フェマーラインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/