フェソロデックスは、乳がんの患者さんに使用されるホルモン療法薬です。
乳がんの治療に用いられるホルモン治療薬は様々な種類がありますが、フェソロデックスは乳がんの治療として女性ホルモンのがん細胞への作用を抑制する一方で、骨や血管に対しては女性ホルモンの作用を示し、「骨粗鬆症」や「動脈硬化」を予防するとされています。
このページでは、抗がん剤「フェソロデックス」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
フェソロデックス(一般名:フルベストラント)とは
フェソロデックスは、英国ICI社(現アストラゼネカ社)によって開発された抗がん剤です。
2002年に米国で承認を受けてから世界70か国以上で承認されている薬剤で、日本では2011年に承認されています。
フェソロデックスが適応となるがんの種類
フェソロデックスは「乳がん」に適応を持つ抗がん剤です。
1回の投与量はフェソロデックス2筒を使用し、投与方法は初回、2週間後、4週間後、その後は4週ごとに、左右の臀部(でんぶ)に1筒ずつ筋肉内投与します。
なお、閉経前乳がんの患者さんに対しては、LH-RHアゴニスト(ゾラデックス)投与下でCDK4/6阻害剤(イブランスやベージニオ)と併用する必要があります。
効能効果、及び用法用量に関連する使用上の注意
・フェソロデックスの使用開始にあたり、原則としてフェソロデックスが作用するホルモン受容体の発現の有無を確認されます。ホルモン受容体が陰性であると判断された場合は使用されません。
・手術補助療法としての有効性と安全性は確立していません。
手術補助療法には「術後補助化学療法」と「術前補助化学療法」があります。術後補助化学療法とは、手術によるがん細胞摘出後に体内に残っているかもしれない微小ながん細胞を完全に排除することを目的として、また、再発のリスクを下げるために術後一定期間抗がん剤が投与される治療法です。術前補助化学療法とは、乳房温存手術を目的として手術前に抗がん剤を投与する治療方法です。
1回の投与量であるフェソロデックス2筒を一側の臀部(でんぶ)にのみ投与しないこととされています。また、同一部位に注射を行うと皮膚組織が固くなることがありますので、臀部の中で注射する部位は毎回変更して投与する必要があります。
フェソロデックスに期待される治療効果
フェソロデックスは、「ホルモン治療薬」のグループに属する抗がん剤です。
乳がんには「女性ホルモンの感受性のあるがん細胞」か「女性ホルモンの感受性のないがん細胞」の2つの種類があり、ホルモン治療薬が効果を示すのは女性ホルモンの感受性のあるがん細胞となります。
フェソロデックスは女性ホルモンの受容体に作用することでがん細胞が女性ホルモン受容体に結合することをブロックし、がん細胞の進行を抑える薬剤です。
フェソロデックスの効果を検証するために実施された日本人を含む国際共同臨床試験において、治療開始よりがんの増悪がなく生存した期間を示す「無増悪生存期間」は16.6か月という結果が示されています。比較対照群に設定されたアリミデックス(一般名アナストロゾール)は13.8か月であり、フェソロデックスが優位であったことが証明されています。
主な副作用と発現時期
フェソロデックスなどのホルモン治療薬である抗がん剤は、化学療法で用いられる抗がん剤と比較すると「骨髄抑制」や「脱毛」などの重い副作用の発現頻度が低いとされていますので、治療が長期間に及ぶ可能性の高い乳がんの患者さんにとって、負担が少なく治療が継続しやすいといった特徴があります。
また、ホルモン治療薬においてはホルモンの分泌を抑制することで血管や骨形成などにも影響を及ぼし「動脈硬化」や「骨粗鬆症」の副作用が現れる場合がありましたが、フェソロデックスは血管や骨などへの女性ホルモン作用へは影響しないという特徴もありますので、より長期に治療に取り組みやすい薬剤といえるでしょう。
主な副作用
乳がんの患者さん56例を対象とした国内臨床試験で報告された主な副作用は以下の通りです。
- 注射部位疼痛:28.6%(16/56例)
- 注射部位硬結:23.2%(13/56例)
- ほてり:14.3%(8/56例)
- 注射部位そう痒感:10.7%(6/56例)
フェソロデックスの副作用を見ると、注射に関連する副作用が多く報告されているのが分かります。筋肉内注射の為、静脈注射などの投与方法に比べると注射部位の痛みなどを感じることが多いため、注射の際は毎回ずらしながら注射すると痛みを感じにくくなります。
フェソロデックスの安全性と使用上の注意
フェソロデックスを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
治療出来ない患者さん
- 妊婦の方、又は妊娠している可能性のある方:動物実験で生殖毒性が報告されています。
- 授乳中の方:動物実験で乳汁移行が確認されています。また、動物実験で出生児の生存率の低値などが報告されています。
- フェソロデックスの成分に対して過敏症の既往をお持ちの患者さん:再度使用することで重い過敏症を発症する可能性があります。
重要な基本的注意
- LH-RHアゴニスト(ゾラデックス)投与下でのCDK4/6阻害剤(イブランスやベージニオ)の併用療法を除き、閉経前の患者さんへの使用は避けられます。
使用上の注意
- 肝機能障害をお持ちの患者さん:フェソロデックスの代謝が遅れ、血中濃度が上昇する可能性があります。血中濃度の上昇により副作用の発現や、副作用が重症化する場合もありますので注意が必要です。
- 重度の腎機能障害をお持ちの患者さん:重度の腎機能障害がある患者さんに対するフェソロデックスの安全性は確立していません。
- 高齢の患者さん一般に高齢の方では生理機能が低下していますので、慎重に投与されます。
フェソロデックスは、がん細胞にある女性ホルモン受容体に対する女性ホルモンの結合を阻害してがん細胞の増殖抑制効果を示す薬剤ですが、がん細胞の女性ホルモン受容体自体の数を減少する効果も持っている抗がん剤です。
受容体の数が減少することは、すなわちがん細胞が栄養を取り入れるルートを失うということですので、効率のよい治療効果を期待することができます。
これからフェソロデックスの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとたってもこの記事が参考になれば幸いです。
フェソロデックス添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/670227_4291421G1020_1_07
フェソロデックスインタビューフォーム
http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/670227_4291421G1020_1_081_1F.pdf
フェソロデックス患者向医薬品ガイド
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/670227_4291421G1020_1_00G.pdf
乳がんNCCNガイドライン
https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/breast/japanese/breast.pdf