アービタックスは、がん細胞が増殖する原因となる特定の因子を標的とする「分子標的薬」という種類に分類される抗がん剤です。分子標的薬は標的とする因子が明確であるため非常に治療効率の良い薬剤であるとされ、がん細胞への効果の高さと副作用の低さが期待できます。
アービタックスは特に大腸がんや頭頸部がんの細胞に多く現れるとされる抗原(因子)に結合し効果を発揮する抗体薬となります。抗体とは異物である特定の抗原に結合しその異物を身体から排除させるもので、例えばウィルスなどに感染した場合は、生体内で対応する抗体がウィルスの抗原に結合して体外に排除しています。
アービタックスはこの抗体を大量に生産する事が出来たらがん細胞を小さくすることが可能なのではないか?という発想から開発された薬剤なのです。
このページでは、抗がん剤「アービタックス」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
アービタックス(一般名:セツキシマブ)とは
アービタックスは、もともと米国カリフォルニア大学で発見された抗体で、この抗体をもとに遺伝子工学に基づいて設計された抗がん剤です。
世界90か国以上で承認されており、[su_highlight background=”#f4fe2c”]日本においては2008年に大腸がんで承認され、2012年に頭頸部がんで承認[/su_highlight]されています。
アービタックスが適応となるがんの種類
アービタックスが適応を持つがんは、「大腸がん」と「頭頸部がん」です。
大腸がん
1週間に1回、初回は体表面積あたり400mgを2時間かけて、2回目以降は体表面積あたり250mgを1時間かけて点滴にて静脈注射を行います。
頭頸部がん
1週間に1回、初回は体表面積あたり400mgを2時間かけて、2回目以降は体表面積あたり250mgを1時間かけて点滴にて静脈注射を行います。
頭頸部がんでは、放射線療法又は他の抗がん剤と併用する必要があります
アービタックスなどの抗体薬は、注射の際の有害反応である「インフュージョンリアクション」という副作用が報告されており、発熱や呼吸困難、血圧低下などの症状が現れます。
インフュージョンリアクションの軽減を目的として、アービタックスの投与前には「抗ヒスタミン剤」や「副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)」の投薬が行われます。
アービタックスに期待される治療効果
アービタックスが標的とする因子は「EGFR(ヒト上皮細胞増殖因子受容体)」で、がん細胞上にあるEGFRにアービタックスが結合する事でがん細胞の増殖を抑えるというメカニズムを持っています。
抗がん剤は、適応となるがん患者さんを対象に臨床試験を実施し、効果が確認されたがんの種類のみが承認されています。
アービタックスにおいても日本人の患者さんを対象に臨床試験を実施しており、標的となるがんが治療前と比較して小さくなった患者さんの割合を示した「奏効率」のデータが公表されています。
- 大腸がん:30.8%
- 頭頸部がん(局所進行の患者さん):81.8%(放射線療法併用)
- 頭頸部がん(再発または転移の患者さん):36.4%(他抗がん剤併用)
主な副作用と発現時期
アービタックスなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。
従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。
特にアービタックスが標的とする「EGFR」は皮膚にも多く存在している事が分かっており、「ざ瘡」という皮膚障害の副作用が多く報告されています。
主な副作用
アービタックス販売後、投与された患者さん全員の使用成績調査の集計結果が以下です。
- ざ瘡54.4%(1091/2006例)
- 皮膚乾燥:21.0%(421/2006例)
- 発疹20.2%(405/2006例)
- 爪囲炎16.9%(338/2006例)
- 下痢15.1%(302/2006例)
- そう痒症10.0%(201/2006例)
これら副作用の発現時期は、投与当日から投与初期にかけて多く報告されていますが、患者さんによっては半年以上経過してから現れる方も確認されています。
患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながらご自身の変化を見逃さないように生活することをおすすめします。
アービタックスの安全性と使用上の注意
アービタックスを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
重要な基本的注意
・重度インフュージョンリアクションの副作用に備えて、緊急時に十分な対応が出来るように準備する必要があります。1回目の投与時にインフュージョンリアクションが現れなくても2回目以降で現れる場合もありますので、アービタックス投与後も少なくとも1時間の観察期間を設け、血圧や脈拍などの測定が行われます。また、抗ヒスタミン剤の前投与が行われた患者さんにおいても、重度のインフュージョンリアクションが現れたとの報告もあります。
・低マグネシウム血症や低カリウム血症、低カルシウム血症、心不全等の心臓障害が現れる事が報告されていますので、治療開始前や治療中、治療終了後まで電解質検査が行われます。
・アービタックスと放射線療法を併用した頭頸部がん患者さんに対する海外の臨床試験において、心肺停止や突然死が報告されています。冠動脈疾患やうっ血性心不全、不整脈の既往歴のある患者さんに投与する際は注意が必要です。
使用上の注意
- 間質性肺疾患の既往がある患者さん:間質性肺疾患が悪化する可能性がありますので、慎重に投与が行われます。
- 心疾患をお持ちの患者さんやその既往がある患者さん:心疾患が悪化する可能性がありますので、慎重に投与が行われます。
- 妊婦や妊娠している可能性のある患者さん:動物実験において、流産や胎児死亡の頻度が上昇したとの報告がありますので、治療の有益性が危険性を上回る場合のみ、アービタックス治療が選択されます。
- 授乳中の患者さん:アービタックスは乳汁中に排出されますので、授乳を中止する必要があります。
- 小児の患者さん:小児の患者さんに対する使用経験がないため、安全性が確立していません。
抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。また、[su_highlight background=”#f4fe2c”]主な副作用を理解し事前に対策をすることで重症化を防ぐことにもつながりますので、ご家族や周りの方の協力を仰ぎながらしっかり対策していきましょう。[/su_highlight]
アービタックスの副作用で多い「ざ瘡」や「発疹」などの対策として、皮膚を清潔に保つ事や直射日光を避け外出時には長袖長ズボン、帽子を着用し紫外線の刺激を避ける事が有効であるとされています。
これからアービタックスの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。
アービタックス添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4291415A1021_1_11/
アービタックスインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
アービタックス患者向け医薬品ガイド
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/380079_4291415A1021_1_00G.pdf