ドキシルが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

抗がん剤ドキシルについて、どのくらいご存知でしょうか。

高い製薬技術を用いて製造されており、有効性・安全性において高く評価されている薬剤になります。増殖する細胞に対して作用する抗がん剤であるため、高い抗がん作用が期待できる一方で、副作用も高頻度で報告されているため、使用には十分な注意が必要になっていきます。

このページではドキシルについて詳しく解りやすく解説していきましょう。

目次

ドキシル(一般名:ドキソルビシン)とは

ドキシルは、米国の大手製薬企業ジョンソンエンドジョンソン社(以下J&J)が製造販売する抗がん剤で、海外(米)では1995年、国内では2007年より販売されています。国内ではJ&Jの医薬品部門の日本法人であるヤンセンファーマ株式会社が製造販売を行っていましたが、2018年より持田製薬が製造販売権を承継しています。

抗がん剤抗生物質(抗腫瘍性抗生物質)と呼ばれる薬剤に分類されており、有効成分ドキソルビシンは、1967年にイタリアの研究者らにより主に土壌などに含まれるストレプトマイセス属微生物と呼ばれる細菌の培養ろ液中から発見された化学物質より合成された化合物になります。

本剤は、ドキソルビシンの体内分布(作用する場所・時間・量)をコントロールするDDS(ドラッグデリバリーシステム)と呼ばれる概念のもと製造された製剤になります。

剤形は注射剤のみで、点滴静脈内注射を休薬期間を設けながら行っていきます。

本剤と同じ有効成分の抗がん剤で1971年に発売されたアドリアシン(販売:アスペンジャパン株式会社)がありますが、こちらはDDS製剤ではなく、また現在共通する適応はないため、用途は全く異なる薬剤になります。

ドキシルが適応となるがんの種類

現在、ドキシルが適応となるがんの種類は、抗がん剤治療後に増悪した卵巣がん、エイズ関連カポジ肉腫になります。

卵巣がんは、早期発見が難しく予後不良の代表的ながんの1つで、抗がん剤治療で有効な薬剤が少なく、特に難治性・再発時の薬剤選択が非常に難しいとされていました。現在ドキシル単剤投与及び他剤併用療法(主に白金製剤との併用)が、抗がん剤治療後に増悪した卵巣がんの標準治療になっています。

エイズ関連カポジ肉腫は、HIV感染症が原因で引き起こされる血管・リンパ管の内皮細胞に発生する多発性の出血性肉腫で、本剤が国内初の適応薬剤になります。第一選択薬及び標準治療として用いられています。

ドキシルに期待される治療効果

作用機序・効果効能

がん細胞も正常な細胞同様に、増殖には遺伝子情報の記憶の役割を持つ「DNA」と遺伝子情報の伝達や使用の役割を持つ「RNA」の生合成が必要になります。

ドキシルは、がん細胞のDNAと結合し、DNA合成酵素及びRNA合成酵素の反応を阻害する作用があり、DNAとRNA両方の生合成を抑制させ、がん細胞の増殖を抑える効果があり、結果アポトーシス(細胞の自然死)を誘導していきます。

本剤は有効成分ドキソルビシンを微小な脂肪様粒子(リポソーム)に封入したDDS製剤で、がん組織に選択的に作用する・血中に滞留しやすいといった特徴があり、ドキソルビシンの有効性・持続性を向上させる・全身性副作用(骨髄抑制・脱毛・心毒性など)を軽減する効果が期待できる薬剤になります。

治験・臨床結果など使用実績

抗がん剤治療歴(白金製剤など)を有する再発卵巣がん患者を対象に行われた臨床試験(国内)においての本剤単独投与による奏効率(がん治療を実施した後に、がん細胞が縮小または消滅した患者の割合)は21.9%、エイズ関連カポジ肉腫患者を対象に行われた臨床試験(海外)においての本剤単独投与による奏効率は53.0%となっています。

評価の基準として奏効率20%以上の場合に効果があるとされており、いずれの対象においても有効性が証明されています。あくまでも単剤投与による結果であるため、抗がん剤の多剤併用を行った際は、さらに高い効果が期待できるものとされています。

主な副作用と発現時期

ドキシルの通常投与量は対象によって異なり(卵巣がんの方が高用量)、副作用状況も異なるため、それぞれの対象において調査が行われています。

主な副作用症状

再発卵巣がんを対象に行われた販売後の使用成績調査では、全体の副作用発現率は72.8%となっており、主な副作用及び検査値異常に、口内炎36.6%、手足症候群33.3%、白血球減少17.1%、好中球減少13.5%、悪心10.3%、貧血9.4%、血小板減少8.9%が報告されています。

エイズ関連カポジ肉腫を対象に行われた使用成績調査では、全体の副作用発現率は47.3%となっており、主な副作用及び検査値異常に、白血球減少22%、好中球減少12.1%、血小板減少6.6%、貧血6.6%が報告されています。

従来のドキソルビシン製剤(アドリアシン)と比較すると、全体的に副作用は少なくなっていますが、手足症候群のようにドキシルにのみ現れる副作用が高頻度で確認されています。

注意すべき重大な副作用症状または疾患

重大な副作用として、骨髄抑制による免疫力低下が原因で引き起こされる感染症及び寄生虫症(毛包炎・鼻咽頭炎・上気道感染・外耳炎・体部白癬・膀胱炎・ウイルス性肝炎・帯状疱疹・ヘルペス・インフルエンザ・季節性アレルギーなど)、心筋障害(心筋症・うっ血性心不全・頻脈・動悸・心電図異常)、アレルギー様又はアナフィラキシー様症状、肝機能障害、間質性肺疾患、肺塞栓症、深部静脈血栓症、精神障害(不眠症など)、神経障害(頭痛・味覚異常・末梢神経障害・めまいなど)、眼障害(白内障・結膜炎・眼乾燥・角膜炎など)、血管障害(高血圧・起立性低血圧)、胃腸障害(便秘・下痢・嘔吐・腹部膨満など)、皮膚障害(脱毛症・色素沈着・爪障害・多汗症など)、筋骨格系障害(背部痛・四肢痛・関節痛など)などが報告されています。

いずれも5%以下または頻度不明と発現率は低いですが、検査等で発覚する疾患も多く、放置することで重篤化する恐れがあります。

ドキシルの安全性と使用上の注意

安全性

抗がん剤治療では必ずしも「安全性の高さ=副作用の少なさ」ではなく、特に細胞障害作用を有する抗がん剤においては、ある程度副作用が現れる前提で考えている場合が多く、適した対策や対処法をとりながら、治療効果を高めていくことを重要視しています。

ドキシルは、DDS製剤であることから、従来のドキソルビシン製剤と比較すると副作用リスクも低く、安全性の高い薬剤と言えますが、前述のように特徴的な副作用もあり、また使用経験が少ない薬剤であるため今後予期せぬ副作用が現れる恐れもあり、使用には十分な注意と経過観察が必要になります。

使用上の注意(投与・併用)

従来のドキソルビシン製剤(アドリアシン及びその後発品)又は本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある方への投与は禁止されています。また、心血管系疾患又はその既往歴のある方、骨髄抑制のある方、肝機能障害のある方、高齢者、大豆アレルギーのある方(本剤の添加物に大豆由来成分が含まれている)への投与は副作用が強く現れる場合があるため慎重投与とされています。

併用注意薬は、放射線照射、その他抗がん剤となっており、併用により副作用(特に心筋障害・骨髄抑制)が現れやすくなります。

まとめ

ドキシルは、適応となるがんの種類が限定的であり、まだまだ需要が高いとは言えない抗がん剤です。

しかし、画期的な製剤であり、その有効性・安全性の高さも評価されており、標準治療薬として又は様々な多剤併用療法の確立、適応が増えていく可能性があり、今後の活躍が期待されます。

ドキシル添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4235402A1025_1_08/
ドキシル概要
https://gansupport.jp/article/drug/drug01/3362.html
ドキソルビシン概要
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%AD%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%B7%E3%83%B3

コダニカズヤ