CA15-3の数値が高い原因と対策

CA15-3は主に乳がんの時に上昇する腫瘍マーカーです。そのため、CA15-3の数値が高い場合には、乳がんになっている可能性があります。
しかし、他の病気や検査の不具合で高値になることもあるため、必ずしも乳がんとは断定できません。

CA15-3の数値を下げる必要はありません。上昇している場合はその原因を詳しく調べ、その原因を取り除くことは必要です。では、具体的にどのようにして原因を取り除けばいいのでしょうか?

今回は、CA15-3が上昇する原因や高値だった場合に行うべき対策についてご紹介します。
漠然と「数値が高かった!」と不安に思うのではなく、適切な対処を行いましょう。

目次

CA15-3とは

CA15-3は、115D8と、DF3という2つの抗体が反応する物質のことをいいます。
115D8はMAM6という抗原と、DF3はDF3抗原とそれぞれ反応します。MAM6、DF3抗原は、それぞれ、乳がんの患者さんの血液中で増える物質です。

抗原とは、免疫反応を起こす物質の総称で、抗原に抗体が結合することで免疫反応が起こります。人の体を例にすると、風邪のウイルスや花粉などが抗原で、これらの抗原を異物として認識し、結合する体のなかで作られるのが抗体です。

抗原の定量を要する検査の際には、検査に使う薬(試薬)のなかに一定量の抗体が含まれています。そのため、検査の試薬と患者さんの血液を混ぜると、患者さんの体のなかにある抗原に、試薬のなかの抗体が結合するのです。抗原と結合した抗体の量を調べることによって、検査したい物質がどれくらいあるかを把握します。

CA15-3は腫瘍マーカーの一種です。腫瘍マーカーとは、体のなかにがんがある場合に、血液中に増加する物質のことをいい、特定のがんで上昇するタイプのものや、さまざまながんで上昇するタイプのものなどがあります。

CA15-3は主に乳がんの腫瘍マーカーとして用いられます。

CA15-3の特徴の1つが、早期の乳がんではなかなか上昇しないという点です。そのため、早期発見に用いるというよりは、手術を受けた後に再発していないかどうかを確認するモニタリングとして活用されることが多いです。

基準値について

CA15-3の基準値は、統一されていません。検査方法や、検査を受ける医療機関によって、さまざまな数値が基準値として採用されており、その数値は大きく異なっているのが現状です。そのため、自分が検査を受けた医療機関以外で採用している基準値と照らし合わせ、自分の検査結果が高かったのか、低かったのかを判断することがとても大切です。

CA15-3が高くなる原因

CA15-3が高くなる主な原因は乳がんです。他に、他の臓器のがんや婦人科の疾患、肝機能障害、検査の影響などによって高値となることもあります。CA15-3が上昇する原因について詳しくみていきましょう。

乳がん

「CA15-3が上昇していれば、まず乳がんを考える」といわれるほど、CA15-3が上昇する原因として最も多いのは乳がんです。乳がんのなかでも、進行したり、他の部位に転移したりした場合に高い数値になりやすい傾向にあります。そのため、CA15-3が高い場合は、乳房の検査はもちろんのこと、肺や肝臓、骨などに転移していないかについても詳しく調べることが必要です。

他の臓器のがん

CA15-3は乳がんで上昇することが多いですが、他のがんでも上昇することがあります。

卵巣がんの患者さんのうち、約4割の患者さんが、肺がん・すい臓がん・胃がん・腎臓がん・子宮がんの患者さんでは約2割の患者さんが高値になるとされています。

婦人科の疾患

子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫などの婦人科の病気でもCA15-3が高値になることがあります。また、まれではありますが、良性の乳腺の病気でも高値になることもあるため、乳がんとの鑑別が重要です。

肝機能障害

肝臓の機能が低下した場合に、CA15-3が高値になることもあります。

検査試薬との相性

まれなことですが、試薬と患者さんの血液の相性によってCA15-3が高い数値になってしまうこともあります。

本来、試薬に含まれる抗体は、特定の抗原としか反応しません。つまり、CA15-3の検査の場合は、MAM6とDF3抗原にしか反応しないはずです。しかし、患者さんの血液のなかにある別な物質と、CA15-3の試薬に含まれる115D8とDF3が反応してしまうことが、まれにあるのです。

そのため、実際にはMAM6とDF3抗原が体内に存在しないにもかかわらず、検査結果としては高値になってしまいます。

CA15-3を下げる方法は?

CA15-3が上昇する原因をいくつかご紹介しましたが、原因が病気によるものである場合は、その病気に対して適切に治療を受けなければ、下がることはありません。

「病院に行くのが怖い」と感じるかもしれませんが、病気は放っておくとますます進行してく可能性がありますので、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。

一方、CA15-3が上昇する原因が検査の試薬との相性だった場合は、検査の試薬を別なメーカーのものと変えることで正しいCA15-3の数値がわかることがあります。この場合は、患者さんが特別何かしなければならない、ということはありません。

臨床検査技師が中心となって、医療機関側が新たな試薬で検査が行われます。もしかすると、患者さんはもう一度採血をお願いされるかもしれませんが、その時にはぜひご協力をお願いします。

CA15-3が基準値以上だった時の対策

CA15-3が基準値以上だった場合、その原因を突き止めなければなりません。原因を突き止めるためには、さまざまな検査が必要になります。

視診・触診

医師が患者さんの乳房を観察したり、直接触ったりして、乳がんの疑わしい部位がないかを確認します。

乳がんがあると、乳房の一部が引っ張られたり、えくぼのように陥没したりすることがあるため、観察はとても大切です。また、乳がんは「唯一触れることができるがん」と言われることもあり、乳がんが大きくなると乳房のなかにしこりとして触れるケースがあります。

血液検査

血液検査では、全身の状態を予想することができるため、さまざまな項目の検査が実施されます。

乳がんの腫瘍マーカーはCA15-3だけでなく、CEAやBCA225なども該当するため、これらの項目の検査も実施してより詳しく乳がんの可能性がないかを調べていきます。他に、肝臓の機能を示すASTやALT、卵巣嚢腫の場合に上昇するCA125なども調べ、乳がん以外の病気になっていないか検討することも大切です。

マンモグラフィ検査

乳病を上下・左右から板で挟んで行うX線検査をマンモグラフィ検査といいます。

この検査では、視診や触診で見つけにくいような小さながんを見つけることが可能です。検査の際に乳房をしっかりとつぶす必要があるため、患者さんは痛みを感じることもあるでしょう。また、X線を使用するため、放射線による被ばくも多少あります。

しかし、乳房全体の観察がしやすいこと、過去の状態と比較しやすいというメリットがあり、その有用性からがん検診でも行われる検査です。

乳腺超音波検査

妊娠中の人、乳腺が発達している若い人では、マンモグラフィ検査よりも乳腺超音波検査の方が適しているケースもあります。

超音波検査はプローブという機械を乳房に当て、そこから発せられる超音波の反射を利用して映像を映し出します。X線を使用しないため被ばくの心配がなく、痛みもありません。

乳腺が発達している人では、マンモグラフィ検査で乳腺が白く映ってしまい、がんの見落としにつながることがあるため、人によっては超音波検査の方が適している場合もあります。一方、超音波検査は乳房全体にがんがないか探すように検査を行うため、検査スタッフの技量によっては、見落としも否定できません。

経膣超音波検査

子宮筋腫や卵巣嚢腫などの婦人科系疾患が疑われる場合は、膣からプローブを入れる超音波検査を行って子宮や卵巣を観察します。この検査は妊娠初期に妊婦が受ける超音波検査と同じもので、被ばくなどの心配はありません。

CT検査

乳房を観察してがんの広がりを調べたり、全身を観察してがんの転移や他の異常がないかを調べます。造影剤という薬を使用して、よりがんが見つけやすくなるようにして行うこともあります。X線を使用するため、被ばくのリスクがある検査です。

MRI検査

CT検査と同様に、乳房や全身を観察します。MRI検査でも造影剤が使用されることがあります。一方、磁力を用いた検査のため、被ばくの心配はありません。

骨シンチグラフィー検査

骨に集まる、放射性物質を含んだ薬剤を患者さんに投与して、特殊なカメラで骨を撮影する検査です。

がんが骨に転移していると、その場所では盛んに骨の破壊と造成が行われます。放射性物質を含んだ薬剤は、骨を積極的に作られている場所に多く集まるため、この性質を利用して骨に転移していないか、転移している場合はどこに転移しているかを調べます。

放射性物質を投与すると聞くと、非常に不安な気持ちになると思いますが、この量はとても微量で、すぐに体外へ排出されるためあまり心配はいりません。

病理検査

乳頭から体液が出ている場合にはその体液を採取したり、乳がんがありそうな場所から組織を採取したりして、そのなかにがん細胞がいないかを調べます。生検(せいけん)という、太い針で病変の一部を採取して行う病理検査では、乳がんかどうかの確定が可能です。

株式会社SRL|SRL総合検査案内「CA15-3」
株式会社ファルコバイオシステムズ|FALCO臨床検査案内サイト「CA15-3」
株式会社ファルコバイオシステムズ|FALCO臨床検査案内サイト「腫瘍関連マーカーの臨床的有用性」
シスメックス株式会社|Primary Care「CA15-3」
株式会社ビー・エム・エル|「CA15-3」
一般社団法人日本乳癌学会|日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン「乳癌診療ガイドライン」
参照日:2020年2月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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