アロマシンは第三世代のアロマターゼ阻害薬と呼ばれるホルモン剤で、発明されて以来乳がんの治療法を大きく変えることができました。
以前はエストロゲン陽性の乳がん治療薬はタモキシフェン(商品名:ノルバデックス)のみでしたが、数年投与した後に耐性が付くという難点がありました。しかしアロマターゼ阻害薬が開発されたことにより、タモキシフェンを投与したあとにアロマターゼ阻害薬を投与することで耐性がつきにくく再発しにくくなることがわかり、またその方法を初めてとったのがアロマシンといわれています。
抗がん剤とホルモン剤は何が違うのか?副作用はあるのか?など疑問に思われる方も少なくありません。以下にアロマシンについて主な作用や治療効果などを詳しくご紹介しますので、参考にしていただければと思います。
目次
アロマシン(一般名:エキセメスタン)とは
アロマシンとは、1982年にファイザー社(旧ファルミタリア カルロエルバ社 イタリア)により開発された非可逆的アロマターゼ阻害薬です。
アロマターゼ阻害薬は世界各国で使用されていますが、その中でもアロマシンは1989年より海外においてタモキシフェン(商品名:ノルバデックス)または他の抗エストロゲン剤に無効となった閉経後の進行乳がんを適応症として欧米を中心に世界49ヵ国において承認を取得し、現在では世界80ヵ国以上で承認されています。
日本では海外の臨床試験を基に2002年7月に閉経後乳がんの適応として承認されました。
アロマシンが適応となるがんの種類
アロマシンは内服にて1日1回食後に服用します。アロマシンが適応となるがんの種類としては、閉経後の乳がんがあり、通常5年~10年ほど続けて服用します。
ホルモン治療ができるかどうかは、乳がん組織を採取してエストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体(エストロゲンの働きによって作られる受容体)のどちらか一方があればホルモン受容体が陽性であるといい、ホルモン治療が有効となります。
アロマシンに期待される治療効果
乳がんの原因の一つに女性ホルモンであるエストロゲンががん細胞の増殖に関与するといわれており、乳がん患者の6~7割がエストロゲンによるものといわれています。
通常エストロゲンは閉経前では卵巣で作られますが、閉経後は卵巣機能が衰えるため代わりに副腎(左右の腎臓の上にある臓器)でつくられるアンドロゲン(男性ホルモン)をもとに脂肪組織にあるアロマターゼとよばれる酵素の働きでエストロゲンがつくられます。
アロマシンはアロマターゼの働きを完全に不活化(=非可逆的反応)することでエストロゲンの生成を抑え、乳がん細胞が増殖しないように働きます。そのため、アロマターゼ阻害薬は閉経後の乳がんにのみ適応があります。
またアロマターゼ阻害薬には可逆的反応の薬と非可逆的反応の薬があり、現在日本で承認されている非可逆的アロマターゼ阻害薬はアロマシンのみです。
使用実績
国内の臨床試験による奏効率(その治療をした後、がん細胞がどのくらい縮小または消滅したかを示したもの)は24.2%となっており、長期(24か月以上)投与の場合では39.4%となっています。
奏効率が20%以上で効果があるとされるのでアロマシン服用により良い効果が出ると考えられており、また長期投与によってさらなる改善が期待されます。
主な副作用と発現時期
アロマシン服用により、40.0%の方に副作用が現れる可能性があります。主な副作用として、ほてり(16.2%)、多汗・悪心・高血圧(各7.6%)、疲労(6.7%)などが服用後3か月後ほどであらわれることがあります。
また頻度としては低いですが、重大な副作用として肝炎、肝機能障害(AST、ALT、AL-P、γ-GTPの上昇など)黄疸などがみられることがあります。
そしてホルモン剤は抗がん剤に比べると副作用は少ないといわれていますが、薬の作用によるエストロゲンの低下により更年期障害に似た症状があらわれることがあります。
エストロゲンには体温調節をしたり骨の形成を促進し骨の吸収を抑えたりといった様々な働きがありますが、エストロゲンが低下することで体温調整がうまくできなくなってほてり(ホットフラッシュ)が起きたり、骨密度の低下により骨がもろくなり、骨折や骨粗しょう症が起こることがあります。
ホットフラッシュの特徴として、急に汗をかいたり胸から顔面にかけて暑くなったり赤くなったり、動悸や不安を伴うこともあります。服用後数か月で次第に軽減することが多いですが、予防法としては通気性のいい服装をする、刺激物を避ける、運動をする などがあります。
骨症状ですが、関節の痛みや骨粗しょう症の悪化を防ぐために日頃からビタミンDやカルシウムを含む食事(魚類、きのこ類など)を取ることが対策として挙げられます。
アロマシンの安全性と使用上の注意
安全性
アロマシンはホルモン剤療法であり、がんに対する薬物療法について十分な知識・経験を持つ医師のもとで、アロマシンによる治療が適切と判断される患者についてのみ使用することとなっています。
使用上の注意
閉経後の方対象の薬のため投与の可能性としては考えられていませんが、妊婦や授乳中の方へは投与しないこととなっています。
また、重度の肝障害、腎障害のある方へは慎重に投与することとなっています。
1)アロマシンは空腹時に服用すると薬の吸収率が低下するため、食後に服用してください。
2)服用後、骨粗しょう症や骨折が起こりやすくなるので骨密度など骨の状態を定期的に検査することがあります。
3)アロマシンを服用中、めまいや眠気が起こることがあります。高所での作業や自動車の運転など危険を伴うような機械を操作するときには注意してください。
4)アロマシンはアロマターゼを阻害することで治療効果を発揮する薬で、活発な卵巣機能を持つ閉経前の乳がんには効果が不十分で使用経験がないため、閉経前の患者に対して投与しないこととなっています。
併用注意
エストロゲン含有製剤はアロマシンの作用を弱める可能性があるため、併用注意となっています。
まとめ
乳がん患者は年々増加しており、今や11人に1人患う病気です。治療法も手術などの外科治療、ホルモン剤や抗がん剤などの薬物療法、放射線療法などを組み合わせて行うため様々な方法があり、同じ乳がんの方でも全身の状態や年齢、合併症や患者さんの希望を考慮しながら行うため治療内容が異なります。
また乳がんは他のがんに比べ進行の遅いがんといわれており、再発予防として薬の服用期間が5~10年と長期に渡るため、薬によっては耐性が付くものもあり、新薬の開発が期待される疾患です。
患者さんの負担が少しでも減るような薬が一日でも早く開発されることを願うばかりです。
指示通り正しく服用し、薬や病気についての正しい知識を得て治療と向き合うことが大切です。
「抗がん剤のすべてがわかる本」 矢沢サイエンスオフィス 編(Gakken)
アロマシン錠25mg 添付文書 2015年7月改訂 ファイザー株式会社
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048974.pdf
アロマシン錠25mg インタビューフォーム 2018年9月改訂
https://pfizerpro.jp/documents/if/arm/arm01if.pdf
がんプラス
https://cancer.qlife.jp/
日本乳癌学会
http://jbcs.gr.jp/guidline/p2019/guidline/