アリムタは悪性胸膜中皮腫の患者さんに対し、世界で初めて有用性が認められた抗がん剤です。
アスベストの粉塵を吸い込んだ事が原因とされる悪性胸膜中皮腫は有効な化学療法がありませんでしたが、アリムタが誕生したことで患者さんの予後は大きく改善され、今でも化学療法の中心的な薬剤として患者さんに貢献している抗がん剤です。
アリムタは抗がん剤ですので、適切に使用する事で効果を発揮する薬剤です。
この記事では「アリムタ」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
アリムタ(一般名:ペメトレキセド)とは
アリムタは米国に本社を構える日本イーライリリー社が開発した抗がん剤で、2004年に米国と欧州で承認され、日本においても早急に承認が必要な薬剤として優先的に承認審査が行われ、2007年に承認されました。その後、非小細胞肺がんでも有用性が認められ、適応が追加されています。
アリムタが適応となるがんの種類
アリムタは、「悪性胸膜中皮腫」及び「非小細胞肺がん」の患者さんに使用する事が出来る抗がん剤です。
悪性胸膜中皮腫
抗がん剤シスプラチンと併用して治療が行われます。
1日1回体表面積当たり500mgを10分間かけて点滴にて静脈注射を行い、その後20日間休薬します。これを1コースとして繰り返し投与されますが、患者さんに現われる副作用などの状況により、減量して投与される事があります。
非小細胞肺がん
1日1回体表面積当たり500mgを10分間かけて点滴にて静脈注射を行い、その後20日間休薬します。これを1コースとして繰り返し投与されますが、患者さんに現われる副作用などの状況により、減量して投与されることがあります。
使用上の注意
アリムタによる重い副作用を軽減する事を目的として、治療中は葉酸とビタミンB12が投与されます。葉酸はアリムタ初回投与日の7日以上前から飲み薬として服用し、投与が終了しても最終投与日から22日までは継続する事が推奨されています。また、ビタミン12は筋肉注射にて投与されますが、アリムタ初回投与の7日前から投与終了後22日まで、9週ごとに1回の注射投与が行われます。
アリムタに期待される治療効果
アリムタは代謝拮抗薬という種類の薬剤で、その中でも「葉酸拮抗薬」という種類に分類されます。
がん細胞は、正常細胞と同じように細胞分裂を繰り返しながら増殖していきます。その細胞分裂の過程であるDNA合成の際にビタミンの一種である「葉酸」が取り込まれますが、アリムタはこの葉酸と似た構造をしているため、がん細胞は間違えてアリムタを取り込んでしまいます。間違って取り込まれたアリムタは細胞のDNA合成を阻害する作用を持ちますので、がん細胞は増殖する事が出来ず死滅へと導くことができるのです。
アリムタの治療成績について、腫瘍が治療開始より小さくなった患者さんの割合を示した「奏効率」は以下となります。
- 悪性胸膜中皮腫:36.8%(シスプラチン併用)
- 非小細胞肺がん:18.5%
主な副作用と発現時期
アリムタは、細胞が増殖する過程で取り込まれ効果を示す薬剤ですので、がん細胞だけではなく正常細胞が増殖する際にも影響を及ぼすことが分かっており、正常細胞に作用した時は副作用として現れる場合があります。
抗がん剤の治療を受けられる方は、事前にどのような副作用が現れるかを把握しておくことでご自身の変化に気付きやすくなり、副作用の影響を最小限にコントロールする事が可能となりますので、アリムタの主な副作用について事前に知っておくことが重要となります。
アリムタの主な副作用(悪性胸膜中皮腫の患者さんを対象とした市販後の使用成績調査903例の解析)
- 悪心:36.7%(331/903例)
- 白血球数減少:34.0%(307/903例)
- 好中球数減少:30.6%(276/903例)
- 貧血:24.3%(219/903例)
- 嘔吐:17.8%(161/903例)
- 食欲不振:16.3%(147/903例)
- 血小板減少:14.0%(126/903例)
- 便秘:12.1%(109/903例)
- リンパ球数減少:12.0%(108/903例)
これら副作用の発現時期は、投与当日から投与期間中にかけて報告されています。
患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、アリムタの治療中にいつもと違う異変を感じたら、我慢せずに病院に報告してください。
ご自身の変化を見逃さず、また、専門医の先生に診てもらうことで治療をより長く続けることが可能となります。
ご自身の体調の変化は自分では実感できない事もありますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらうことをおすすめします。
アリムタの安全性と使用上の注意
アリムタを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
重要な基本的注意
・発疹が起こる場合がありますので、発疹の発現や重症化を軽減する為に副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の併用投与が考慮されます。
・骨髄抑制などの重い副作用が起こる場合がありますので、頻回に血液検査や肝機能検査、腎機能検査が実施されます。
・間質性肺炎などの重大な副作用が起こる場合がありますので、呼吸状態や発熱、咳の有無などに注意が必要です。間質性肺炎などが発症した場合は、直ちにアリムタの投与は中止しなければなりません。
・アリムタによる胸水や腹水などの発現は不明ですが、他の類似薬でこれらの副作用が報告されていますので、多量の胸水や腹水のある患者さんは事前に排泄の処置が推奨されています。
・動物実験において催奇形性や雄性生殖器に対する影響が報告されていますので、性腺への影響を十分に考慮する必要があります。
使用上の注意
・腎障害のある患者さん:アリムタは主に腎より排泄されますので、腎障害のある患者さんにおいては排泄が遅延し副作用が増強してしまう可能性があります。
・肝障害のある患者さん:安全性についての十分なデータがありません。
・高齢の患者さん:一般的に生理機能が低下している患者さんが多いため、慎重に投与が行われます。
・小児の患者さん:小児の患者さんに対する使用経験がなく、安全性は確立していません。
アリムタなどの抗がん剤は、現れやすいとされる副作用の対策を知っておくことで、症状が現れた時にすぐ対応する事ができます。
アリムタは抗がん剤の副作用に特徴的な骨髄抑制が現れやすい薬剤ですので、日常生活などにおいては急に立ち上がるなどの急激な動きをしないようにし、ゆっくりとした行動を心がけることで立ちくらみなどの身体が感じる負担を軽減する事が出来ます。
また、悪心、嘔吐、食欲不振などの消化器症状も多く報告されていますので、これらの症状を感じた場合は1回の食事量を減らし1日の食事の回数を増やすなどの対策が有効です。
副作用の負担をできる限り最小限にする事が治療を長く続けるポイントにもなりますので、これからアリムタの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとっても参考になれば幸いです。
アリムタ添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4229401D1020_1_13/
アリムタインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/