AFPの数値が高い原因と対策

健康診断や人間ドックでAFPの数値が高いという結果が出たら、不安になりますよね。また、がんの治療後の定期検診でAFPが基準値を超えると「再発したのではないか」と心配になるのではないでしょうか。

AFPは主に肝臓がん、卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)、精巣腫瘍などの悪性の疾患をはじめ、良性の疾患や妊娠でも上昇する項目です。しかし、AFPが高いというだけでは自分がどの状態になっているのかはわかりませんし、AFPの数値はセルフケアで改善するものではありません。

では、AFPが高い場合の原因の把握と対処はどのようにしていけばいいのでしょうか。今回はAFPが上昇する原因と、基準値を超えた場合の対策について詳しく解説します。

目次

AFPとは

AFPとは、腫瘍マーカーの一種です。腫瘍マーカーとは、体内にがんがある場合に増加する物質のことをいいます。しかし、腫瘍マーカーが高いからといって必ずがんがあるわけではありません。腫瘍マーカーのなかには、がんではない良性の病気で上昇するものもあるため、上昇している原因を見極めることが重要です。

また、腫瘍マーカーは早期のがんから必ずしも増加するのではなく、ある程度がんが進行してから増加してくることが多いです。AFPも例外ではなく、早期での診断の有用性は低いとされています。その一方、継続的に腫瘍マーカーの測定値の変化をみていくことで、がんが悪くなったり再発したりしていないかを調べる指標になります。

元々AFPは胎児の肝臓や卵黄嚢という組織で作られている物質です。出産後は作られなくなるため、健康な人ではほとんど検出できません。しかし、肝臓や卵黄嚢由来の組織でがんが発生したり、良性の病気にかかったりすると上昇することがあります。

基準値について

AFPの基準値は、10ng/ml以下を採用しているケースが多いです。

しかし、この数値は全国的に統一されていないため、基準値を20ng/mlと設定していたり、他の基準値を採用したりしている施設もあります。この数値の違いは、検査に使用する機械や試薬によって生じています。

そのため、自分が受診した医療機関での基準値と比較して、数値が高いのか、低いのかをみることが大切です。

AFPが高くなる原因

AFPが高くなる要因として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 肝臓がん
  • 精巣腫瘍(一部の胎児性がんを含むもの)
  • 卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)
  • 肝炎、肝硬変
  • 妊娠
  • 検査による偽高値

それぞれの病気や状態について詳しく見ていきましょう。

肝臓がん

AFPが上昇する疾患として特によく知られているのが肝臓がんです。
肝臓がんは、がんが発生する細胞によって肝細胞がんと肝内胆管がんに分けられますが、特に肝細胞がんの場合にAFPが上昇することが多いとされています。
また、胃がんやすい臓がんから転移した転移性肝臓がんの場合にも上昇する場合があります。

肝臓がんは肝硬変がより悪くなって発生することが多い病気です。
そのため、肝硬変と診断された段階からAFPの測定を行い、上昇傾向がみられる場合には肝臓がんの発生を疑って診断、治療を進めていきます。

卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)

精子と卵子が受精し、受精卵ができると、細胞分裂を繰り返して成長していきます。
その過程の中で、卵黄嚢(ヨークサック)という組織ができますが、その組織の一部に原始胚細胞(原始生殖細胞)というものが現れます。

この原始胚細胞から精巣や卵巣がつくられ、やがて精子や卵子となるのですが、原始胚細胞から精子や卵子になるまでの間に、腫瘍になってしまったものを卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)といいます。

卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)は新生児から成人に至るまで幅広い年代で発生し、薬による治療効果が出やすい一方、悪性度の高い腫瘍です。

肝炎、肝硬変

肝炎や肝硬変はがんではありませんが、AFPが上昇する疾患として知られています。
特に慢性肝炎や肝硬変では20~40%で陽性になるとされていますが、肝臓がん比べると上昇の程度は低いです。

いずれにせよ、肝臓に疾患があってAFPが上昇してる場合は、肝臓がんが体内に存在しないかを詳しく調べることが大切です。

妊娠

妊娠した場合にも、AFPが上昇します。この上昇は一時的で、出産すると基準値内に下がります。

検査による偽高値

本来、AFPの検査はAFPのみを検出する試薬を使って検査を行います。しかし、人によっては検査の試薬と血液の相性が悪く、実際にはAFPが存在しないのにあたかもAFPが存在するかのような検査結果になってしまうことがあるのです。

これを、偽高値(ぎこうち)といいます。

偽高値の場合、AFPは体内にほとんど存在しないため、上記にあげたような疾患や状態の可能性は低くなります。

AFPを下げる方法は?

腫瘍マーカーであるAFPが高い場合にそれを下げるためのセルフケアがあればいいのですが、現状としては存在しません。また下げる必要もありません。腫瘍マーカーが高値であった場合は医療機関で精密検査を受けてがんを含めて病気が隠れていないか調べることが必要です。

ただし、検査の偽高値であった場合には、試薬を変えて検査を実施することで、正しいAFPの測定値がわかり、その結果、数値が下がるということがありえます。
このケースでは先に精密検査を行い、がんが見つからなかった場合に検査の偽高値を疑って、試薬を変えた検査を行うのが一般的です。

試薬を変えての検査は、臨床検査技師が中心となって医療機関が行うため、患者さんが特別何かしなければならない、ということはありません。

AFPが基準値以上だった時の対策

AFPが基準値以上だった場合、原因を調べるためにさまざまな検査が必要となります。例えば、次のような検査です。

  • 血液検査
  • 超音波検査
  • X線検査
  • CT検査
  • MRI検査
  • 腹腔鏡検査
  • 病理検査

それぞれの検査について詳しくみていきましょう。

血液検査

血液検査では、全身の状態を調べる検査と、他の腫瘍マーカーの検査を行います。
全身の状態を調べる検査の項目はさまざまありますが、炎症反応で上昇するCRPなどの項目が該当します。

他に肝臓がんや肝炎、肝硬変が疑われる場合は、肝臓の機能を調べる検査としてAST、ALT、LDHなどの項目を検査することが多いです。

一方、卵黄嚢腫(ヨークサック腫瘍)ではホルモンの一種であるエストロゲンやアンドロゲンの活性が上昇するケースがあるため、これらの検査を行われることもあります。

超音波検査

肝臓の病変や卵黄嚢腫は、超音波検査で捉えられるケースがあります。超音波検査は痛みがなく、放射線の被曝もないため、安全性の高い検査です。超音波検査であれば妊娠の可能性がある場合でも検査を行うことができます。

X線検査

いわゆるレントゲン写真を撮影して、全身にがんや病変がないか確認します。放射線を使用するため、多少の被曝がある検査です。

CT検査

大きな機械の中に入り、全身を輪切りにした画像を撮影する検査です。
全身を細かく輪切りにした画像を撮影することで、より精密に病変の有無を確認できます。
CT検査も放射線を使用するため、多少の被曝があります。

MRI検査

CTと同様に大きな機械の中に入り、輪切りの画像を撮影します。MRIは磁力を使って検査を行うため、被爆の心配はありません。

腹腔鏡検査

お腹のなかを直接見たい場合には、お腹に何か所か小さな穴を開けてカメラを挿入し、お腹のなかを見る腹腔鏡検査をすることもあります。
お腹のなかを観察してがんが疑われるような場合には、病変の一部を切除し、次に紹介する病理検査を行うこともあります。

病理検査

針生検(太い針を刺して病変の一部を採取すること)や、腹腔鏡検査で組織の一部を採取
した場合、また、手術で病変を切除した場合には病理検査を行います。

病理検査では採取した組織を薄く切り、染色して顕微鏡で観察します。この検査ではがんかどうか、がんの種類は何なのかを確定することも可能です。

金原出版 「臨床検査法提要第31版」
メディックメディア 「病気がみえる9 婦人科・乳腺外科
メディックメディア 「病気がみえる10 産科」
学習研究社 「エビデンスに基づく検査データ活用マニュアル」
国立がん研究センターがん情報サービス 「肝細胞癌」
小児慢性特定疾病情報センター 「卵黄嚢腫」
参照日:2020年2月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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