アフィニトールが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

アフィニトールは、近年増加傾向にある「神経内分泌腫瘍」や「腎細胞がん」などに適応を持つ、内服の抗がん剤です。神経内分泌腫瘍は日本でも有名なアップル社のスティーブ・ジョブズ氏が罹患されていたことでも注目された疾患ですが、治療が出来る抗がん剤が少なく、また効果的な抗がん剤もほとんどなかったため、アフィニトールが承認された事で患者さんの治療選択肢が大きく広がることになりました。

このページでは、このような抗がん剤「アフィニトール」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

アフィニトール(一般名:エベロリムス)とは

アフィニトールは、スイスに本社を構えるノバルティスファーマ社において1992年に合成された薬剤で、「分子標的薬」に分類される抗がん剤です。分子標的薬とはがん細胞が特異的に持っている増殖に関わる因子にピンポイントで作用するため、がん細胞への攻撃力の高さと副作用の低さが期待される薬剤です。

アフィニトールは2009年に米国で承認された後、現在では120か国以上で承認されており日本では2010年に承認を受け使用されています。

アフィニトールが適応となるがんの種類

アフィニトールが適応を持つがんは、「腎細胞がん」、「神経内分泌腫瘍」、「乳がん」、「腎血管筋脂肪腫」、「上衣下巨細胞性星細胞腫」です。

※「腎細胞がん」は治療ガイドラインでは免疫チェックポイント治療薬であるヤーボイとオプジーボの併用療法が第一選択として推奨されており、乳がんは患者さんの特性などから様々な治療方法からより適した治療方法が選択されますが、アフィニトールが選択される場合は他の抗がん剤(ホルモン剤)と併用して投与されます。

アフィニトールはアフィニトール錠とアフィニトール分散錠が発売されており、分散錠は上衣下巨細胞性星細胞腫にのみ適応を持っています。

各がんの服用方法は以下となります。

腎細胞がん

1日1回10mgのアフィニトールを経口により投与します。

神経内分泌腫瘍

1日1回10mgのアフィニトールを経口により投与します。

結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫

1日1回10mgのアフィニトールを経口により投与します。

手術不能または再発の乳がん

1日1回10mgのアフィニトールを経口により投与します。

アフィニトールが治療薬剤として選択される場合は、他の抗がん剤と併用されます。

結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞星細胞腫

1日1回体表面積当たり3mgのアフィニトールを経口投与します。

上衣下巨細胞星細胞腫の患者さんにはアフィニトールの分散錠が処方される事があります。

分散錠は水に溶かして服用する事が可能で、一般的に高齢の方など飲み込む力の弱い方に適しています。

アフィニトールは食事の影響を受けるとされていますので、服用の際は「食後」または「空腹時」のいずれか一定の条件で投与する必要があります。

アフィニトールに期待される治療効果

分子標的薬であるアフィニトールは、がん細胞の増殖に必要なたんぱく質合成を行っている「mTOR」という酵素を阻害する抗がん剤です。

がん細胞は特定の遺伝子やたんぱく質が発現しており、これらががん細胞の更なる増殖や転移に関係しているとされていますが、分子標的薬とはこのがん細胞が持っている遺伝子やたんぱく質など特定の因子を標的とした薬剤です。

アフィニトールが適応を持つ各がんの効果について、臨床試験の結果から治療開始よりがんが進行しなかった期間「無増悪生存期間」と、治療開始からがん細胞が一定以上縮小し効果が認められた患者さんの割合を示した「奏効率」という指標を用いて解説します。

  • 腎細胞がん:無増悪生存期間4.01ヶ月(日本を含む国際共同臨床試験)
  • 神経内分泌腫瘍:無増悪生存期間11.04ヶ月(日本を含む国際共同臨床試験)
  • 乳がん:無増悪生存期間6.93ヶ月(日本を含む国際共同臨床試験)
  • 腎血管筋脂肪腫:奏効率41.8%(日本を含む国際共同試験)
  • 上衣下巨細胞星細胞腫:奏効率34.6%(海外臨床試験)

主な副作用と発現時期

アフィニールなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。

従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。

主な副作用

腎細胞がんを対象とした臨床試験において、解析された274例(うち日本人は15例)で確認された主な副作用は以下となります。

  • 口内炎:43.8%(120/274例)
  • 発疹:29.6%(81/274例)
  • 貧血:28.1%(81/274例)
  • 疲労:24.8%(68/274例)
  • 下痢:23.7%(65/274例)
  • 無力症:23.0%(63/274例)
  • 食欲減退:20.8%(57/274例)
  • 高コレステロール血症:19.7%(54/274例)
  • 悪心:19.3%(53/274例)
  • 嘔吐:17.5%(48/274例)
  • 粘膜の炎症:17.5%(48/274例)
  • 末梢性浮腫:16.8%(46/274例)
  • 高トリグリセリド血症:16.1%(44/274例)
  • 咳嗽(がいそう):15.0%(41/274例)

これら副作用の発現時期は、投与当日から投与初期にかけて多く報告されていますが、患者さんによっては半年以上経過してから現れる方も確認されています。

患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながらご自身の変化を見逃さないように生活することをおすすめします。

アフィニトールの安全性と使用上の注意

アフィニトールを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

治療出来ない患者さん

・アフィニトールの成分や、シロリムス、シロリムス誘導体に対して過敏症の既往歴をお持ちの患者さん:命に関わる過敏反応を起こす可能性があります。

・妊婦又は妊娠している可能性のある患者さん:ラットやウサギを用いた動物実験において、生殖発生毒性が認められています。

・生ワクチンを使用する予定のある患者さん:アフィニトールにより免疫が抑制されている状態で病原性を現す可能性がありますので、併用は禁止となっています。

重要な基本的注意

  • 間質性肺疾患が現れる事がありますので、咳嗽(がいそう)、呼吸困難などの呼吸器症状に注意が必要です。また、治療開始前及びアフィニトールの投与中は腰部CT検査を実施し、肺の観察を十分に行わなければなりません。
  • アフィニトールにより免疫が抑制されますので、感染症の発現、または悪化する可能性があります。また、B型肝炎ウイルスキャリアの患者さんではウイルスの再活性化による肝炎が現れる事があります。
  • 重い腎障害が現れる事がありますので、定期的な腎機能検査が必要となります。
  • 高血糖が現れる事がありますので、定期的に血糖値の測定が行われます。
  • 骨髄抑制が現れる事がありますので、定期的に血液検査が行われます。

使用上の注意

  • 肺に間質性陰影が認められる患者さん:間質性肺炎が発症、または重症化する可能性があります。
  • 感染症を合併している患者さん:免疫抑制により感染症が悪化する可能性があります。
  • 肝機能障害をお持ちの患者さん:アフィニトールの血中濃度が上昇し、重い副作用に発展する可能性があります。
  • 高齢の患者さん:一般的に高齢の方は生理機能が低下している事が多いため、慎重に投与すべきとされています。
  • 肝炎ウイルスや結核等の感染、または既往歴をお持ちの患者さん:再活性化する可能性があります。

抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。

アフィニトールは様々ながんに適応を持っていますが、特に神経内分泌腫瘍の患者さんにとって非常に高い治療効果が確認されています。一方で、様々な種類の副作用が現れる事が報告されていますので、治療中はご自身の変化にいち早く気づき、早期に対処する事が重要となります。特に間質性肺疾患という命に関わる重い副作用が現れる事がありますので、発熱を伴う息切れや痰を絡まない空咳、胸の痛みを感じた場合にはすぐに主治医の先生に報告しましょう。

これからアフィニトールの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

アフィニトール錠添付文書 http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300242_4291023F1020_1_23#WARNINGS
アフィニトール分散錠添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/300242_4291023X1026_1_11#WARNINGS
アフィニトール患者向け医薬品ガイド
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/300242_4291023F1020_1_00G.pdf
アフィニトールインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

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薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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