アドリアシンが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

みなさんは抗がん剤アドリアシンについて、どのくらいご存知でしょうか。

幅広いがんの種類に対応できることができ、発売から40年以上経った現在でも多くの現場で用いられており、がん治療を専門とするほとんどの医療機関で採用されている医薬品になります。

増殖する細胞に対して作用する抗がん剤であるため、高い抗がん作用が期待できますが、同時に副作用も高頻度で現れるため使用には十分な注意が必要になっていきます。

このページではアドリアシンについて詳しく解りやすく解説します。

目次

アドリアシン(一般名:ドキソルビシン)とは

アドリアシンは、アスペンジャパン株式会社が製造販売(2017年協和キリンより製造販売権を承継)する抗がん剤で、海外(伊)では1971年、国内では1975年より販売されています。

抗がん剤抗生物質(抗腫瘍性抗生物質)と呼ばれる薬剤に分類されており、有効成分ドキソルビシンは、1967年にイタリアの研究者らにより、主に土壌などに含まれるストレプトマイセス属微生物と呼ばれる細菌の培養ろ液中から発見された化学物質より合成された化合物になります。

様々な臨床試験、長い使用実績の中でエビデンス(臨床試験による科学的根拠)が確立しているため効果の信頼性が高く、多剤併用療法(他の抗がん剤との併用)では中核をなす薬剤の1つと位置付けられています。

剤形は注射剤のみで、静脈内注射(ワンショット投与)・点滴静脈内注射・膀胱内注入とがんの種類によって様々な投与方法で用いられます。

本剤と同じ有効成分の抗がん剤に、薬剤の体内分布(作用する場所・時間・量)をコントロールし効果の増強・副作用の軽減を狙ったDDS(ドラッグデリバリーシステム)の概念のもと製造されたドキシル(1995年発売)がありますが、現在共通する適応はないため、用途は全く異なる薬剤になります。

アドリアシンが適応となるがんの種類

アドリアシンが適応となるがんの種類は、悪性リンパ腫(リンパ肉腫・細網肉腫・ホジキン病)、肺がん、消化器がん(胃がん・胆のうがん・胆管がん・膵臓がん・肝臓がん・結腸がん・直腸がんなど)、乳がん、膀胱がん、骨肉腫になります。

また多剤併用療法が条件に、乳がん(手術可能例における術前または術後の化学療法)、子宮体がん(術後・転移・再発時の化学療法)、悪性骨・軟部腫瘍、悪性骨腫瘍、多発性骨髄腫、小児悪性固形腫瘍(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍・横紋筋肉腫・神経芽腫・網膜芽腫・肝芽腫・腎芽腫など)、尿路上皮がんにも適応があります。

初期から術後・再発のがんまで幅広く用いられており、ABVD療法・CHOP療法は悪性リンパ腫の、AC療法は再発乳がんの、M-VAC療法は膀胱がん・尿路上皮がんの第一選択薬または標準治療薬となっています。

※ABVD療法…ドキソルビシン(先発商品名アドリアシン)、ブレオマイシン(ブレオ)、ビンブラスチン(エクザール)、ダカルバジン(ダカルバジン)の併用療法

※CHOP療法…シクロホスファミド(エンドキサン)、ビンクリスチン(オンコビン)、ステロイド(プレドニゾロンなど)の併用

※AC療法…ドキソルビシン(アドリアシン)、シクロホスファミド(エンドキサン)の併用療法

※M-VAC療法…メトトレキサート(メトトレキセート)、ビンブラスチン(エクザール)、ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ランダ又はブリプラチン)の併用療法

アドリアシンに期待される治療効果

作用機序・効果効能

がん細胞も正常な細胞同様に、増殖には遺伝子情報の記憶の役割を持つ「DNA」と遺伝子情報の伝達や使用の役割を持つ「RNA」の生合成が必要になります。

アドリアシンは、がん細胞のDNAと結合し、DNA合成酵素及びRNA合成酵素の反応を阻害する作用があり、DNAとRNA両方の生合成を抑制させ、がん細胞の増殖を抑える効果があり、結果アポトーシス(細胞の自然死)を誘導していきます。

治験・臨床結果など使用実績

国内で行われた臨床試験において、アドリアシン単剤投与による各がん種別の奏効率(がん治療を実施した後に、がん細胞が縮小または消滅した患者の割合)は、悪性リンパ腫(リンパ肉腫46.7%、細網肉腫23.1%、ホジキン病40%)、肺がん34.2%、消化器がん(胃がん29.7%、胆のう・胆管がん60%、膵臓がん40%、肝臓がん16.7%、結腸がん22.2%、直腸がん9.1%)、乳がん50%、膀胱がん59.3%、骨肉腫25.9%となっています。

がんの種類によって奏効率に差がありますが、評価の基準として奏効率20%以上の場合に効果があるとされており、幅広い有効性が証明されています。

あくまでも単剤投与による結果であるため、抗がん剤の多剤併用を行った際は、さらに高い効果が期待できるものとされています。

主な副作用と発現時期

アドリアシンは、その作用機序から高い抗がん作用が期待できる一方で、健康細胞への影響も大きく、副作用が顕著に現れる薬剤になります。副作用症状や発現率は、全身投与(静注及び点滴静注)と膀胱内注入で大きく異なっており、それぞれで調査が行われています。

主な副作用症状

全身投与(静注及び点滴静注)での副作用調査において、副作用発現率は全体で92.2%、主なものに脱毛61.6%、白血球減少43.4%、悪心・嘔吐42.9%、食欲不振39.7%、口内炎22.2%、血小板減少15.6%、貧血・赤血球減少14.6%、心電図異常12.1%が報告されています。

膀胱内注入での副作用調査において、副作用発現率は全体で35.6%、主なものに膀胱刺激症状(頻尿・排尿痛・膀胱炎・血尿など)33.9%、発熱1.2%、食欲不振1.1%、白血球減少1.0%が報告されています。膀胱内注入による副作用が少ないのは、膀胱への局所作用であり、血液を介して全身に作用しないためになります。

注意すべき重大な副作用症状または疾患

重大な副作用として、全身投与では心筋障害(頻脈・不整脈)、心不全、アナフィラキシーショック、間質性肺炎、膀胱内注入では萎縮膀胱(膀胱が萎縮し容量が減少する状態)が報告されています。

いずれも0.1~5%または頻度不明と発現率は低いですが、検査等で発覚する疾患も多く、放置することで重篤化する恐れがあります。

アドリアシンの安全性と使用上の注意

安全性

アドリアシンは、その効果作用により、副作用が現れやすく、決して投与による身体への負担が少ない薬剤ではありません。

しかし、抗がん剤治療では必ずしも「安全性の高さ=副作用の少なさ」ではなく、特に細胞障害作用を有する抗がん剤においては、ある程度副作用が現れる前提で考えている場合が多く、適した対策や対処法をとりながら、治療効果を高めていくことを重要視しています。本剤は、長い使用実績から多くの臨床データがあり、細かい経過観察やリスク管理を行うことができる薬剤になります。

使用上の注意(投与・併用)

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある方、心機能異常又はその既往歴のある方への投与は禁止されています。また、骨髄抑制のある方、肝障害・腎障害のある方、感染症を合併している方、高齢者、水疱患者への投与は副作用が強く現れる場合もあるため慎重投与とされています。

併用注意薬は、放射線照射、その他抗がん剤となっており、抗がん剤との併用では特に心筋障害・骨髄抑制が現れやすくなります。

まとめ

アドリアシンは、投与する側(医療機関)からすれば、使用実績が多く、投与継続するも中止するも判断がしやすく、あらゆる場合に対応できる薬剤です。また、幅広い適応・確立された多剤併用療法といった強みもあるため、今後も多くの臨床の場で長く用いられることが予想されます。

アドリアシン添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4235402D1030_2_02/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%AD%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%83%93%E3%82%B7%E3%83%B3

コダニカズヤ