イレッサは、通常米国から発売が開始されることの多い抗がん剤において、世界に先駆け日本が最初の承認国となった薬剤です。
また、発売当初は従来の殺細胞性抗がん剤とは異なり、がん細胞に現われているターゲット(分子)に作用する「分子標的薬」という新しいカテゴリーの抗がん剤であったため、当時大きな注目を集めていました。
「分子標的薬」は、ターゲットのみに作用するため副作用が少ないとされ、さらにイレッサは飲み薬であったため、患者さんにとっても医師にとっても負担が少なく、まさに夢の薬として期待されていたのです。
しかし、副作用が少ないとされていたイレッサですが、「分子標的薬」がターゲットとする分子は正常細胞にも見られることがあり、正常細胞にも作用することで副作用が現れる事が分かってきました。発売初期には「間質性肺疾患」という副作用で多くの方が死亡に至ったとして、頻繁にメディアに取り上げられていたため、悪いイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
また、短い期間で専門家によって評価される治験とは異なり、実際の診療において長期に使用する中で、現れた副作用について適切に対処できなければ重い副作用に進展してしまうこともあります。
イレッサは抗がん剤ですので、適切に使用する事で効果を発揮する薬剤です。
この記事ではイレッサについて詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。
目次
イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)とは
イレッサは2002年より日本において発売が開始されていますが、特に日本人に対して高い効果を示すとされており、日本での申請から約5か月という異例のスピードで承認された経緯があります。
承認されている国は、日本を含んだアジア諸国や欧州、オーストラリア、メキシコ、アルゼンチンです。
イレッサが適応となるがんの種類
イレッサは、日本においては「EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん」の患者さんの治療に使用する事が出来る抗がん剤です。
非小細胞肺がん
1日1回250mg(1錠)を、毎日服用します。
使用上の注意
イレッサの使用上の注意として、投与前に必ずEGFR遺伝子変異の有無を検査する必要があります。EGFR遺伝子変異が陰性の患者さんにおいては、効果が確認されていませんので使用する事が出来ません。
また、「補助化学療法」としての有効性と安全性は確立していませんので、使用する事が出来ません。
※「補助化学療法」とは、手術治療を行った患者さんにおいて、体内に残っているかもしれない微小ながん細胞を排除する為、また再発してしまう確率を低くするために、手術後一定期間抗がん剤を投与する治療方法です。
イレッサに期待される治療効果
イレッサはがん細胞が特異的に関わっている上皮成長因子受容体(EGFR)という因子を阻害する事で、がん細胞の増殖を抑制する効果が期待できる「分子標的薬」というグループの抗がん剤です。
イレッサで行われた第Ⅱ相国際共同臨床試験においては、奏効率18.4%(日本人:27.5%)病勢進行までの期間83日(日本人:114日)という結果が得られています。
主な副作用と発現時期
抗がん剤はがん細胞だけではなく正常細胞にも作用してしまいます。
イレッサにおいても正常細胞に作用しますので、副作用が現れる方が報告されています。
特にイレッサがターゲットとするEGFRは、正常細胞である皮膚に多く存在する事が分かっており、皮膚障害が多く報告されています。
抗がん剤を使用する上でどんな副作用が現れるのか、事前に把握しておくことが重要になります。
主な副作用(市販後の特別調査3322例を解析)
- 発疹:17.10%
- 下痢:11.05%
- 肝機能異常:11.11%
- 間質性肺疾患4.46%
これら副作用の発現時期は、投与当日から投与期間中にかけて報告されています。
患者さん個人によって現れる時期や程度の重さが異なりますので、イレッサを治療中にいつもと違う異変を感じたら、我慢せずに病院に報告してください。
またまれですが、治療後においても副作用が報告されていますので注意が必要です。
さらに、記事の冒頭でも触れましたが、イレッサを使用した患者さんで「間質性肺疾患」が報告されています。
間質性肺疾患は命にかかわる重大な副作用ですので、特徴的な症状である「発熱、から咳、息苦しさ」を感じたら、早急に専門の主治医にかかる事が重要です。
ご自身の変化を見逃さず、また、専門医の先生に診てもらうことで治療をより長く続けることが可能となります。
ご自身の体調の変化は自分では実感できない事もありますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらうことをおすすめします。
イレッサの安全性と使用上の注意
イレッサを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。
重要な基本的注意
- 間質性肺疾患や急性肺障害などの重い副作用が現れる事がありますので、定期的に胸部X線検査などが行われます。
- 肝機能の異常が見られることがありますので、必要に応じて肝機能検査が行われます。
- 無酸症など低胃酸状態にある患者さんにおいては、イレッサの血中濃度が下がり作用が弱くなる可能性があります。
- 無力症の副作用が報告されていますので、イレッサ投与中は自動車運転などの危険を伴う機械操作はできません。
- QT延長が起こることがありますので、必要に応じて心電図検査が行われます。
※「QT延長」とは、心電図検査で確認されるQT間隔は心室筋の電気的な収縮時間を現しており、この間隔が延長する事をいいます。発作がない時には自覚症状がありませんが、発作を起こすと動悸や脈の乱れなどを感じる事がありますし、重症の場合には突然死を招く恐れもあります。
使用上の注意
- 間質性肺疾患をお持ちの患者さん:間質性肺炎が悪化し、致命的となる可能性があります。
- 全身状態が悪い患者さん:間質性肺疾患や急性肺障害などが現れる確率が上昇する傾向があります。
- 肝機能障害をお持ちの患者さん:肝機能検査の数値が上がることが確認されています。
- 高齢の患者さん:一般的に高齢の方は代謝機能が低下していますので、重い副作用があらわれてしまうことがあります。
- 妊婦、産婦、授乳婦の患者さん:妊娠している、またはその可能性のある患者さんは、危険性より有益性が上回る場合のみ使用されます。また、授乳中の患者さんには投与を避ける事とされています。
抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。これから治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとっても参考になれば幸いです。
イレッサ添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/670227_4291013F1027_1_30#WARNINGS
患者向けガイド、インタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/4291013