スプリセルが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧

スプリセルは、血液のがんである慢性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病に適応を持つ抗がん剤です。

現在でも抗がん剤によるがんの完全治癒は難しいとされており、抗がん剤治療の目標は生存期間の延長や症状の緩和となりますが、スプリセルは特に初発の慢性骨髄性白血病の患者さんに対し長期に渡り高い効果を維持することが分かっています。

このページでは、抗がん剤「スプリセル」について詳しく解説していきますので、治療を検討されている方はぜひご覧ください。

目次

スプリセル(一般名:ダサチニブ)とは

スプリセルは、ブリストル・マイヤーズスクイブ社において開発された薬剤で、2006年に米国で承認されてから60か国以上で承認されており、日本においては2011年に承認されています。

スプリセルが適応となるがんの種類

スプリセルは「慢性骨髄性白血病」、「フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病」に適応を持つ抗がん剤で、内服により治療が行われます。

各がんの服用方法は以下となります。

慢性骨髄性白血病

慢性期の場合は、1日1回100mg(140mgまで増量可能)、急性期・移行期の場合は1回70mg(90mgまで増量可能)を1日2回、毎日服用します。

フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病

1回70mg(90mgまで増量可能)を1日2回、毎日服用します。

スプリセルに期待される治療効果

スプリセルは、「分子標的薬」というグループに属する抗がん剤です。

がん細胞は特定の遺伝子やたんぱく質が発現しており、これらががん細胞の更なる増殖や転移に関係しているとされていますが、分子標的薬とはこのがん細胞が持っている遺伝子やたんぱく質など特定の因子を標的とする薬剤です。

スプリセルは、慢性骨髄性白血病の原因となるフィラデルフィア染色体の異常から産生される「Bcr-Abl」というたんぱく質を標的にしています。同じく「Bcr-Abl」を標的とし、先に承認され広く使用されていた「グリベック」は、Bcr-ablの変異の種類によっては治療効果が得られないケースがありましたが、スプリセルはBcr-Ablの変異に広く対応する薬剤で、グリベックが効かなかった患者さんにおいても効果がある可能性があります。

スプリセルの効果について、「細胞遺伝学的完全寛解」という顕微鏡検査や血液検査でフィラデルフィア染色体が消失している状態を示す指標を用いて解説します。

慢性骨髄性白血病
76.8%(日本を含む国際共同臨床試験)
フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病
46.2%(国内臨床試験)

主な副作用と発現時期

スプリセルなどの分子標的薬はがん細胞に特有の因子を標的とされていますが、実は正常細胞にもその因子が存在する為、副作用が現れることがあります。

従来の殺細胞性抗がん剤と比較すると副作用は少ないとされていますが、現れる副作用の種類が大きく異なりますので注意が必要です。

また、先に承認されていたグリベックと比較すると、胸水といって胸に水が溜まる副作用が多く報告されていますので、日常生活において体重の変化などには特に気を付けるようにしましょう。

主な副作用

初発の慢性骨髄性白血病の患者さん258例を対象とした、日本を含む国際共同試験で報告された主な副作用は以下となります。

  • 下痢:17.4%(45/258例)
  • 頭痛:11.6%(30/258例)
  • 胸水:10.1%(26/258例)
  • 好中球減少症:20.7%(53/258例)
  • 血小板減少症:19.1%(49/258例)
  • 貧血:10.2%(26/258例)

これら副作用の発現時期は患者さんによって異なり、投与初期に現れる方や投与から1年以上経過してから現れる方もいますので投与中は常にご自身の変化に注意が必要です。

また、患者さんによって副作用の重さも異なりますので、ご家族など身近な方にも必要に応じてサポートしてもらいながら生活することをおすすめします。

スプリセルの安全性と使用上の注意

スプリセルを使用するにあたり、事前に知っておくべき事と使用上の注意をまとめましたので参考にしてください。

重要な基本的注意

  • グリベックの治療歴があり副作用が原因で中止となった患者さんにおいては、グリベックの治療時と同様の副作用が現れる可能性がありますので注意が必要です。
  • 骨髄抑制の副作用が現れる場合がありますので、定期的な血液検査が行われます。なお、骨髄抑制は病期の進行とともに重くなることが分かっています。
  • 胸水や肺水腫、心嚢液貯留、腹水、全身性浮腫などの体液貯留が現れる場合があります。胸水の場合は呼吸困難や、痰を絡まないかわいた咳が症状として認められる事があります。体液貯留が認められた場合には利尿剤や短期間のステロイド剤が投与されます。
  • 突然死の可能性もある心電図検査の異常で、QT間隔の延長が報告されています。定期的な心電図検査が行われ、異常が認められた場合は減量や休薬などが検討されます。
  • B型肝炎ウイルスキャリアの患者さんにおいては、スプリセルの投与によりウイルスの再活性化が現れる場合があります。投与前に肝炎ウイルス感染の有無について確認されます。

使用上の注意

  • 間質性肺疾患の既往をお持ちの患者さん:重い間質性肺疾患が起こる可能性があります。
  • 肝障害をお持ちの患者さん:スプリセルは主に肝臓により薬物代謝が行われますので、肝障害をお持ちの患者さんは代謝が遅れる事で血中濃度が上昇し、重い副作用が現れる可能性があります。
  • QT間隔延長の恐れのある患者さんや既往をお持ちの患者さん:スプリセルの投与によりQT間隔の延長が現れる可能性があります。
  • 血小板機能を抑制する薬剤や抗凝固剤を投与中の患者さん:出血傾向が強くなる可能性があります。
  • 心疾患の既往をお持ちの患者さんや心疾患の危険因子をお持ちの患者さん:急性心不全やうっ血性心不全、心筋症、拡張機能障害、駆出率低下、左室機能不全、致死的な心筋梗塞など、心臓の副作用が現れる可能性があります。
  • 高齢の患者さん:一般的に高齢の方は生理機能が低下していますので副作用の頻度が高くなる可能性があります。スプリセルの臨床試験では、65歳以上の患者さんにおいて胸水や呼吸困難、疲労、食欲障害などで頻度が高かった事が確認されています。
  • 妊婦または妊娠している可能性のある患者さん:海外で妊娠中にスプリセルを使用した患者さんにおいて、児の奇形や胎児水腫などが報告されています。
  • 授乳中の患者さん:動物実験により乳汁中に移行することが確認されていますので、授乳を中止する必要があります。

抗がん剤は、使用上の注意や副作用などをしっかり確認し、用法・用量を守って正しく使用する事で最大の効果を得る事が出来る薬剤です。

特にスプリセルなどのように長期に渡り効果が認められている薬剤については、副作用により中止を避けるために、副作用の兆候を見逃さず初期に対処する事が重要となります。

これからスプリセルの治療を検討されている方や、現在治療中の患者さんにとってもこの記事が参考になれば幸いです。

スプリセル添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/670605_4291020F1027_1_15#WARNINGS
スプリセルインタビューフォーム
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/4291020
スプリセル患者向医薬品ガイド
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/670605_4291020F1027_1_00G.pdf
NCCNガイドライン 慢性骨髄性白血病
https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/hematologic/japanese/cml.pdf
ポスト・イマチニブ時代
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/5/99_1072/_pdf

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薬剤師

将来に迷っていた高校生の頃に身内が数人がんで亡くなる経験をしたことで、延命ではなく治癒できる抗がん剤を開発したいと考えるようになり、薬剤師を目指しました。
大学卒業後は製薬メーカーに薬剤師として勤務し、抗がん剤などの薬剤開発に約18年携わって参りました。
現在は、子育てをしながら医療系の執筆を中心に活動しており、今までの経験を生かして薬剤の正しい、新しい情報が患者様に届くように執筆しております

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