前立腺がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

ある程度の年齢になると、職場などの健康診断で、「前立腺がんの検査をしますか?」と、尋ねられたことがあるのではないでしょうか。前立腺がんは、男性特有の臓器である「前立腺」から発生するがんです。近年は増加傾向にあり、2020年以降には、男性のがんのうち、第1番目の罹患数となる見込みです。

では、前立腺がんを予防するためには、日頃どのような点について気をつけていけば良いのでしょうか。また、どのような人によく前立腺がんが発生しているのでしょうか。

ここでは、前立腺がんのリスクファクターや射精との関係について、最新の研究結果などを基に紹介していきます。ぜひ予防や早期発見のための参考にして下さい。

目次

前立腺がんとは

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前立腺がんは、文字通り「前立腺」から発生するがんです。しかし、そもそも「前立腺」という臓器がどこにあって、どのような働きがあるのかについては、余り知られていないと思います。まずは、前立腺について説明します。

そもそも、「前立腺」とは何か

前立腺は、男性にのみあり、20g程の小さな臓器です。場所としては、「膀胱」の下側で尿道の周りを取り囲むように位置しています。また、精液をためる「精嚢」とも隣接しています。精液の通り道である射精管は精嚢を出た後、前立腺の内部で尿道と繋がっています。

前立腺の働きについては、まだ分かっていないことも多くあります。生殖に関する前立腺の主な働きとしては前立腺液の分泌があります。前立腺液は精液の主成分の1つで、精子の保護や精子の活動が活発になるように補助する役割があります。

前立腺には筋肉も存在しています。この筋肉は平滑筋と呼ばれる種類の筋肉なので、自分の意志で動かすことはできませんが、必要時に無意識で収縮する能力があります。射精の時には、溜められた精液を精嚢から尿道内に押し出す働きがあります。また、精液が膀胱側に逆流しないように尿道を狭めるような調整も行っています。

前立腺がんの特徴

前立腺には、大きく分けると内側で尿道に近い「内腺」と外側で尿道からも離れた「外腺」に分かれています。前立腺がんは外腺から発生します。前立腺がんとよく比較される病気として前立腺肥大がありますが、これは内腺に生じる病気です。ただし、前立腺肥大があれば、前立腺がんにはならないというわけではありません。

前立腺がんは、早期に発見すれば治療可能な病気です。また、多くの場合では、がんの進行はとてもゆっくりで、大きくなるのは数十年かかっています。そのため、前立腺がんが発生していても、前立腺がんが見つかる前に他の病気で死亡するような方もいらっしゃいます。一方で、一部の前立腺がんは進行して致死的なものとなってしまいます。

前立腺がんの主な原因とリスクファクター

前立腺がんの原因やリスクファクターには、現在研究がすすんでいることもあり、明らかになっていない点も多くあります。ここでは、研究報告の内容から前立腺がんのリスクファクターを紹介します。

前立腺がんと関連がある食事

前立腺がんに促進的に働くと考えられている食事は、高脂肪食です。この結果は多くの研究で一致した結果です。逆に、魚に含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった成分は、前立腺がん細胞の増殖を抑制することが示されています。スウェーデンの研究では、魚を多く食べる男性では、前立腺がんの発症や死亡が少ないことが示されました。

牛乳・乳製品とカルシウム摂取との関連も研究されていますが、「関連がある」という研究と「関連は無い」という研究があり、現時点では関連が明確ではありません。

野菜・果物は一般的には、健康によい食品ですが、前立腺がん予防の観点では、これまでの研究結果から明確な関連は示されていません。しかし、一部の食品(大豆のイソフラボン・緑茶のカテキン・トマトのリコペン)には前立腺がん予防効果があると考えられ、注目されています。

前立腺がんとタバコ

タバコと前立腺がんの関連については、「関連が無い」という報告も多くありましたが、2010年の大規模な研究成果によると、喫煙本数・喫煙年数が多い男性では、前立腺がんのリスクが上がることが示されました。その後の2013年の研究においても、ヘビースモーカーの方は前立腺がんによる死亡リスクが高いことが示されました。これらの結果から判断すると、喫煙(特にヘビースモーカー)では、前立腺がんのリスクが高まると考えてよいでしょう。

前立腺がんになりやすい人の特徴

他のがんと同様に、高齢になればなるほど前立腺がんになりやすく、60歳以上で特に多くなっています。また、ご家族・血縁の方に前立腺がんになった方がいると、ご本人も前立腺がんになりやすいことも分かっています。ここでは、その他のなりやすい人の特徴として、「肥満」と「運動」について紹介します。

肥満は前立腺がんに影響するか?

最近の研究では、肥満は前立腺がんの発症に関与していることが知られています。身長と体重のバランスをみるための指標にBMIという指標があります。BMIは(体重kg)÷{(身長m)×(身長m)}で計算することができます。BMIが5あがると、前立腺がんの発症リスクが約5%増加することが示されました。特に進行前立腺がん発症では、この影響はさらに強くなっています。

運動する人は前立腺がんになりにくいか?

運動による前立腺がんへの影響については、50歳代前半で積極的な運動への取組みをしていた男性では、前立腺がん発症のリスクが低かったことが示されました。メタボリックシンドローム要因との関連もあり、メカニズムは複雑であると考えられますが、運動をしている人は運動をしていない人と比べて前立腺がんになりにくいと考えて良さそうです。

射精の回数と前立腺がんの関連性

射精頻度は前立腺がんリスクと逆相関の関係にあることが分かっています。2016年のアメリカの研究によると、1ヶ月当たり21回以上射精する男性では、4~7回の男性と比べて、前立腺がん発症のリスクが低かったことがわかりました。20歳代では19%程度のリスク低下があるのに対し、40歳代では22%のリスク低下があり、壮年期の射精回数での予防効果が強いことも明らかになっています。なお、これらの研究での「射精回数」は性交、夢精、自慰での射精を合わせた回数としてカウントされています。

予防と早期発見のコツ

予防のための4つの戦略

リスクを下げる食生活

食事では、高脂肪食を避け、魚類を多くすることが有効です。また、大豆・緑茶・トマトといった予防効果が注目されている食品を摂取することも予防には役に立つと考えられます。

しかし、いずれの食品であっても、そればかりを摂取し続けることは、食事から摂取する栄養バランスを崩し、他の病気になってしまいかねません。そのような本末転倒なことにならないように、予防効果がある食品を意識しつつも、栄養バランスを崩さない食生活をおくることが重要です。

運動と体重をコントロールする

食生活だけでなく、運動習慣に気をつけて、肥満にならないように(または、肥満の状態から抜け出せるように)すると良いでしょう。運動習慣をつけることは前立腺がん予防という観点だけでなく、メタボリックシンドローム等の他の病気の予防にもなりますので、お勧めしたい点です。

射精回数21回以上/月

これまでの研究成果からは、男性が生涯にわたって頻繁に射精することは、前立腺がん予防という観点からすると良い影響をもたらすことが示されています。特に、壮年期に入ってからの「1ヶ月当たり射精回数21回以上」が最も予防効果が見られています。

禁煙する

タバコ影響については、前立腺がんでは明らかになっていない部分もありますが、少なくともヘビースモーカーの方で前立腺がんの発症リスクが高いですので、禁煙によってがん発生を予防することが出来ます。特に、前立腺がんだけでなく他のがんの予防にもなりますので、禁煙を心がけることをお勧めします。

早期発見のコツ

前立腺がんでは、「尿の回数が多くなった」「尿が出にくい」といって症状が出ることもありますが、このような症状は前立腺肥大でむしろよく見られます。早期の前立腺がんの多くには症状がありません。そのため、前立腺がんは自分自身では最初は気づきにくいがんの種類です。

しかし、前立腺がんではPSAという血液検査によって、早期発見することができます。この検査は、人間ドックなどでは、男性に対するオプション検査として利用できることが多くありますので、受検できる機会があれば、ぜひ検討してみて下さい。特に、ご家族・血縁の方が前立腺がんになった、という話があれば、ご本人のリスクも高いと考えられますので、早期発見に役立つPSA検査が必要になると考えられます。

前立腺癌診療ガイドライン2016年版. 日本泌尿器科学会編. メディカルレビュー社.
What’s前立腺がん | 前立腺がんについて
What’s前立腺がん | 疫学 ~前立腺がんは増えている?~
Ejaculation Frequency and Risk of Prostate Cancer: Updated Results with an Additional Decade of Follow-up – PubMed
参照日:2019年11月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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