健康診断でSTNの検査結果が高値だと、「自分は何か病気にかかっているのだろうか」と不安になりますよね。また、以前がんを経験した方では、経過観察中にSTNが上昇すると、「再発したのではないか」と心配になるのではないでしょうか。
本ページでは、STNが上昇する原因とその対処法について解説します。「病気が見つかるのが怖いから」と検査結果をそのままにせず、精密検査を受けて原因にしっかりと対処していきましょう。
目次
STNとは
STNは、正式名称を「シアリルTn抗原」といいます。STNは腫瘍マーカーの一種で、体内にがんが存在しているときに血液中で増加することのある物質です。
腫瘍マーカーの中には、がん以外の病気(良性疾患)でも増加しやすいものもあります。その一方で、STNは良性疾患で上昇することはあまりありません。そのため、がんの診断の補助や経過観察に有用とされています。しかし、STNの検査結果のみでがんを診断することはなく、他の腫瘍マーカーをはじめとした血液検査の結果、CT検査やMRI検査などの画像検査の結果なども確認し、総合的に医師が判断してがんかどうかの診断をすすめていきます。
また、体内にがんがあっても、血液中の腫瘍マーカーが増加しないこともあります。STNが上昇することが多い疾患として、卵巣がんや再発胃がんなどが挙げられますが、卵巣がんで上昇する患者の割合は40%強、再発胃がんでは70%弱という報告もあります。そのため、STNが低いからといってがんを否定できるというものでもありません。
また、STNは患者の予後を左右する指標としても注目されています。手術前にSTNが増加している場合、増加していない患者に比べると予後が悪いという報告があります。
STNの基準値について
STNの基準値は、45U/ml以下と設定している検査会社が多くみられます。しかし、STNの基準値は全国的に統一されていません。そのため、受診する医療機関によっては、異なる基準値を採用しているケースがあります。
このような理由から、自分の検査結果を確認する際には、受診している医療機関で採用している基準値を確認し、その基準値に比べて自分の検査結果が高いのかどうかを確認することが大切です。
STNが高くなる原因
STNは次のような病気で上昇するとされています。
卵巣がん
STNが上昇する病気として特に知られているのが卵巣がんです。先ほどもご紹介しましたが、卵巣がんの患者さんのうち、40%強の人でSTNが上昇するという報告がされています。
卵巣がんは自覚症状があまりないため、気付いた時にはかなりがんが進行していることもある病気です。そのため、体調に特に異常を感じなくても、STNが上昇している場合には、早めに精密検査や治療を受けることが大切です。
子宮頸がん
子宮頸がんも、STNが上昇する病気の1つです。子宮頸がんが発生原因には、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が挙げられます。性交の経験がある人、HPVワクチンを接種していない人は、子宮頸がんも視野にいれて検査を進めることが必要です。
子宮頸がんは、20代後半から患者が増加します。そのため、「若いからがんの心配はいらない」と思わず、さらに詳しい検査を受けることが大切です。
消化器がん
胃がん、胆道系がん(消化液である胆汁の通り道にできるがん)、すい臓がん、大腸がん、など、消化器にできるがんでも、STNが上昇することがあります(20~30%)。特に胃がんの再発の場合には、STNが上昇する患者さんの割合が67%と、上昇することが多いといえるでしょう。
しかし、STNの検査結果だけでは、どの部位にがんが発生しているのかまではわからないので、他の精密検査の結果も加味し、診断を進めていくことが大切です。
卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)
卵巣発生する良性の腫瘍を、卵巣嚢腫といいます。卵巣嚢腫でもSTNが上昇することがありますが、その割合は10%程度です。
卵巣に腫瘍が発生した場合には、悪性の卵巣がんなのか、良性の卵巣嚢腫なのかをきちんと鑑別して治療を進めていくことが必要です。
胆石症
胆石症は、胆汁の通り道である胆のうや胆道に石ができる病気です。胆石があっても必ずしも症状が現れるわけではなく、23%程度の人は無症状といわれています。一方、症状が現れる場合には、お腹から背中にかけて痛みを感じる、発熱や嘔吐があるなどの症状が現れます。
検査の偽高値(ぎこうち)
非常にまれなことではありますが、検査に使用する試薬と患者さんの血液の相性によって、実際にはSTNが血液中に存在しないにも関わらず、検査結果が高値になることもあります。これを「偽高値」といいます。
この場合は、病気が原因で上昇しているのではなく、患者さんの体質によるものなので、何か病気が隠れているということではありません。
STNを下げる方法は?
ここまで見てきたように、STNが上昇する原因の多くは病気によるものです。そのため、血糖値やコレステロール値のように、生活習慣を改善すればSTNも低下するということはありません。したがって、STNが上昇している場合には、きちんと原因を把握し、必要があれば治療を受けることが大切です。
一方で、検査の偽高値によってSTNが上昇している場合には、検査に使用する試薬を変更することで、正しいSTNの測定結果を得ることができます。この場合は、臨床検査技師が中心となって再検査を行い、正しい検査結果を導き出します。特別患者さんに何かしてもらうことは基本的にありませんが、採血した血液が不足した場合には、再度採血をお願いすることもあります。
STNが基準値以上だった時の対策
STNが高値だった場合には、精密検査を行って上昇している原因をとらえることが大切です。どのような精密検査が必要なのかをみていきましょう。
血液検査
STNの検査の際に同時に行われることもありますが、患者さんの全身の状態や、各臓器の状態を把握するために、さまざまな項目の血液検査を実施します。
特に、腫瘍マーカーの一種であるCA-125は、卵巣がんで高い陽性率を示すため、STNの結果と併せて結果を確認することで、より卵巣がんかどうかの診断に近づけることができます。
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、プローブと呼ばれる機械を体に当て、プローブから発せられる超音波が臓器にぶつかって反射する様子を画像化することで、体内の様子を観察する検査です。
超音波は人体に害がなく、妊婦健診でも行われる検査なので、被ばくなどの心配は必要ありません。
消化器を観察する場合には、お腹にプローブを当てて臓器を観察します。この検査では、胆石の観察も可能です。一方、卵巣や子宮頸部を観察する場合には、膣から小型のプローブを挿入して観察していきます。
CT、MRI検査
CT検査、MRI検査では、全身の輪切りの写真を撮影し、がんの有無や広がり、転移などを確認していきます。検査の際に造影剤という薬を注射してから検査をすると、がんにその造影剤が集まり、より検査結果がわかりやすくなります。
CT検査ではX線を使用するため、被ばくのリスクがあります。しかし、CT検査での被ばくは、ただちに命に関わるような影響はありません。一方、MRI検査は磁力を用いて検査を行うため、被爆の心配はありません。
内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)
胃がんや大腸がんが疑われる場合には、口や肛門から小さなカメラを挿入し、直接胃や大腸の中を観察します。内視鏡検査では、小さな癌であればそのまま切除することも可能です。
病理検査
がんの組織を採取し、顕微鏡で観察してがんがあるかを調べます。病理検査によって、病気の診断が確定となります。
組織の採取方法はさまざまで、内視鏡検査の際に採取することもあれば、子宮頸部からブラシで採取することもあります。一方、卵巣がんが疑われる場合には、お腹を開けて卵巣から組織を取り出して検査を行います。
株式会社ビー・エム・エル|STN(シアリルTn抗原)
株式会社ファルコバイオシステムズ|FALCO 臨床検査案内サイト「シアリルTn抗原(STN)」
シスメックス株式会社|Primary Care「シアリルTn抗原(STN)」
国立がん研究センターがん情報サービス「卵巣がん」
国立がん研究センターがん情報サービス「子宮頸がん」
参照日:2020年5月