PSAの数値が高い原因と対策

PSAは前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられますが、他の原因で上昇することもあります。そこで今回は、PSAが上昇する原因と、高値だった場合に行う対策についてご紹介します。この記事を参考にし、ぜひ精密検査を受けてください。

目次

PSAとは

PSAは、前立腺の上皮細胞から産生されるタンパク質で、腫瘍マーカーの一種です。前立腺は、男性の膀胱の下に存在する組織で、尿道を取り囲むように存在しています。

腫瘍マーカーとは、体内にがんが存在する場合に体内で増加することがある物質のことで、がんの発見や、治療効果を観察するのに有用とされています。

PSAは、検診で上昇をとらえることにより、前立腺がんを早期に発見できるといわれています。そのため現在は、検診で前立腺がんになっているかどうかを調べる検査(スクリーニング検査)として用いられています。

また、前立腺がんの治療効果を判定や治療後の経過観察の際にもPSAの検査が行われます。

PSAは、タンパク質に結合した結合型PSAと、単独で存在する遊離型PSAに分けられます。
遊離型はfree PSAやF-PSAと呼ばれ、結合型PSAと遊離型PSAを合わせたものはTotal PSAやT-PSAと呼ばれます。
F-PSAとT-PSAの比率(F/T比といいます。)は、後に述べる疾患の鑑別に用いられます。

PSAの基準値について

PSAの基準値は、長らく4.0ng/mL以下を用いられてきました。ただし、この基準値は全国で統一された数値ではないため、受診する医療機関によってはこの基準値と異なる値を設定しているケースがあります。

その場合は、受診した医療機関で用いている基準値を参考に自分の検査結果を見るようにしましょう。

また、小さながんや悪性度の低いがん(比較的経過が良好に進むがん)では、あまりPSAが上昇しないという傾向にあります。そのため、年齢によって基準値を変えることも提案され、その有用性も報告されています。

日本泌尿器科学会の前立腺癌診療ガイドライン2016年版では、全年齢で基準値を4.0ng/mL未満とするか、次の基準値を採用するよう記載されています、

  • 50~64歳 3.0ng/ml以下
  • 65~69歳 3.5ng/ml以下
  • 70歳以上 4.0ng/ml以下

これらの基準値を超えた場合には、精密な検査が必要です。
また、基準値を超えていない場合でも、1.1ng/ml以上の場合は1年後再検診が、1.0ng/ml以下の場合は3年後の再検診がそれぞれ推奨されています。

F/T比は疾患の鑑別に用いられますが、これらの比率の基準値は、使用する検査のキットによって大きく異なります。そのため、一般的な基準値というものが存在しません。
この比率の基準値についても、受診する医療機関の基準値を参考にしてください。

PSAが高くなる原因

PSAは前立腺から産生されるタンパク質のため、前立腺に疾患がある場合に上昇します。
具体的には前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺炎などです。
また、検査前や検査中の要因によって、PSAの数値が上昇する場合があります。

つまり、PSAは腫瘍マーカーの一種ではありますが、【PSAの上昇=前立腺がん】というわけではありません。それぞれの疾患について詳しくみていきましょう。

前立腺がん

前立腺にがんが発生しても、早期では無症状なことが多いです。がんが進行するにしたがって、尿がでにくい、トイレの回数が増えるなどの自覚症状が現れます。さらに進行すると、尿に血液が混ざったり、近くの骨に転移して腰痛などを感じたりします。

前立腺がんは、他のがんに比べて比較的進行がゆっくりで、寿命に影響しないケースもあります。とはいえ、がんの性質や患者さんの体質によって進行のスピードは異なるため、自己判断せずに治療や経過観察を進めることが大切です。

前立腺がんではPSAが増加しますが、その中でも結合型PSAが増えるとされています。そのため、F/T比は低下する傾向があります。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は、前立腺の細胞が増加する病気です。
がんも細胞が増加する病気ですが、前立腺肥大症で増加する細胞は性質の悪いものではなく、直ちに命に関わるということはありません。

とはいえ、尿の切れが悪い、トイレに何度も行きたくなるなど日常生活に支障をきたす症状が現れますし、前立腺肥大症は前立腺がんのリスク因子とされているため、医療機関での適切な治療や経過観察が推奨されます。

前立腺肥大症ではF-PSAが上昇する傾向にあり、F/T比が上昇する傾向にあります。

前立腺炎

何らかの原因で、前立腺に炎症が起こった状態です。細菌の感染によって炎症が起こるケースもありますが、多くは細菌が検出されません。症状としては、トイレが近い、残尿感があるなどがメインとなります。

前立腺炎も前立腺がんのリスク要因とされているため、自己判断で放置せず、治療を受けることが大切です。
前立腺炎でもF-PSAが上昇する傾向にあり、F/T比が上昇する傾向にあります。

検査前の処置

PSAは正常な前立腺の細胞でも作られているため、健康な人の前立腺にも微量のPSAが存在します。

PSAの検査は血液で行いますが、血液の採取の前に前立腺を刺激するような処置が行われると、前立腺の中にあったPSAが血液中に流れていまい、PSAの値が上昇します。
そのため、がんや炎症がなくてもPSAが高い数値になる可能性があるのです。

前立腺を刺激する処置というのは、前立腺の触診や生検などです。これらの具体的な内容は、後程ご紹介します。

検査の非特異反応

PSAの検査では、PSAにだけ反応するような試薬を使って検査を行います。しかし、患者さんの体質と試薬の相性によっては、患者さんの体内の別な物質と試薬が誤って反応してしまい、あたかもPSAが体内にたくさんあるかのような検査結果になることがあるのです。

これを検査の非特異反応(ひとくいはんのう)といいます。

PSAを下げる方法は?

PSAが上昇している原因が、採血前に前立腺を刺激した、検査の非特異反応が起きたという場合には、これらを避けることでPSAの数値が下がる可能性があります。

特に検査の非特異反応が疑われる場合には、検査の試薬を変えて再度検査を行います。

この場合には、臨床検査技師が中心となって医療機関側が実施するため、患者さんが特別何かしなければならないということはありません。ただし、採取した血液が足りなくなってしまった場合には、再度採血をお願いされる場合があります。

これら2つの原因以外でPSAが上昇している場合には、残念ながらセルフケアや生活習慣の改善でPSAを下げるのは難しいでしょう。医療機関を受診し、適切な治療を受けることで、PSAの低下を期待します。

前立腺肥大症に対する薬剤の一部にPSAを低下させるものがあります。服用した場合には本当にPSAが上昇していないのかがわからなくなってしまうので、注意が必要です。

PSAが基準値以上だった時の対策

PSAが基準値以上だった場合、次のような精密検査を行ってPSAが上昇している原因を探ります。どのような検査を行うのか、みていきましょう。

前立腺の触診

医師が肛門から指を挿入し、前立腺の形や状態を確認します。
前立腺の形が左右非対称であったり、表面がデコボコしたりしている場合には、前立腺がんを疑います。

超音波検査

肛門から超音波検査の器具を挿入し、前立腺の大きさや形、中身の構造を調べます。
放射線を使用しないため、被爆の心配のない検査です。

前立腺の生検

前立腺の組織に細い針を刺し、前立腺の一部を採取して顕微鏡で観察します。
採取する際には超音波検査で前立腺を観察しながら、針を刺していきます。
この検査では、前立腺がんかどうかの確定を行うことが可能です。

CT検査

体を横切りにした画像を撮影し、全身にがんが転移していないかを調べます。
放射線を使用するため、多少の被曝は避けられない検査です。
また、多くのケースで造影剤という薬を注射し、よりがんを見つけやすくして検査を行います。患者さんによっては造影剤でアレルギー症状が現れるため、具合が悪くなった場合には速やかに医療スタッフに伝えてください。
また、過去に造影剤を使用して具合が悪くなったことがある場合は、医師にその旨を伝えてください。

MRI検査

CT検査と同様に全身を輪切りにした画像を撮影し、前立腺にがんがあるか、転移があるかを調べます。
MRI検査でも造影剤を使うケースがあるため、検査中の体調不良や、過去の検査で体調不良になったことがある場合は、医療スタッフに速やかに伝えてください。
MRI検査は磁石の力で検査を行うため、被爆の心配はありません。

骨シンチグラフィ検査

放射線を出す物質で印をつけた骨に集まる薬を患者さんに投与し、全身の写真を撮影します。前立腺がんと診断された場合に行われることが一般的です。

骨にがんが転移している場合、この薬はその場所に多く集まるので、写真を観察して薬が多く集まっている場所がないかを調べます。
放射線を出す物質を体内に投与するため、体への影響が心配になりますが、被ばく量は胃のX線検査と同じくらいで、特別多いというわけではありません。
また、時間とともに放射線は減衰しますし、体外へ排泄されるので過度な心配は不要です。

日本泌尿器科学会 | 前立腺癌診療ガイドライン2016
日本泌尿器科学会 | 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン
国立がん研究センター がん情報サービス | 前立腺がん 検査
日本メジフィジックス株式会社 | 骨シンチグラフィとは
学習研究社 「エビデンスに基づく検査データ活用マニュアル」金原出版 「臨床検査法提要」
参照日:2020年2月

植村 元秀

医師 | 日本臨床腫瘍学会専門医・臨床遺伝専門医・日本癌学会 会員/評議員・アメリカ癌治療学会 会員・ヨーロッパ癌治療学会 会員

大阪府生まれ。1997年(平成9年)大阪大学医学部卒業。医師免許取得後、大阪大学や大阪労災病院の泌尿器科で務める。

2006年東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで、研究を始める。ホルモン不応性の前立腺がんにおいて高発現する新規遺伝子の同定などを行い日本泌尿器科学会総会の総会賞を受賞する。

成果を一流がん専門誌に掲載、それが認められ、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学に3年間、研究員として留学。
帰国後、大阪大学大学院医学部医学科で、教鞭をとりつつ研究に励む。

その後、大阪大学では、講師、准教授となり、手術などの診療のみならず、後進の指導を行うなども続ける。大阪大学での活動では大阪大学総長賞やヨーロッパなどでの学会で複数回受賞、科研を中心とした公的研究費も多くを獲得するなど、研究活動も熱心に継続。その後、さらに活動を広げるべく、名古屋大学商科大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。福島県立医科大学医学部の特任教授に招致され、後進の育成や研究の幅を広げている。

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